「PLAN 75」 2022 日本 / フランス / フィリピン / カタール
監督 早川千絵
出演 倍賞千恵子 磯村勇斗 ステファニー・アリアン
たかお鷹 河合優実 大方斐紗子 串田和美
矢野陽子 中山マリ
ストーリー
75歳以上が自ら生死を選択できる制度が国会で可決された近未来の日本。
夫と死別して一人で暮らしていたミチ(倍賞千恵子)は清掃員として働いていたが、会社の健康診断でふとプラン75のCMを目にした。
健康診断が終わり、ミチが何人かとカラオケに向かったところ、その中の一人がリゾートホテルのパンフレットを取り出した。
どうやら彼女はプラン75を利用するようで、利用者だけが貰える10万円で最後の贅沢をするのだと話した。
孫のためになら腹をくくれると聞いたミチと友人の稲子(大方斐紗子)は、複雑な気持ちになった。
いつものように働いていたミチと稲子だったが、突然稲子が倒れ病院へ運ばれた。
その後、ミチや他の高齢女性たちが、高齢を理由に解雇された。
職を失い、家まで立ち退きになったミチ、もちろん新しい仕事もなかなか見つからず住む家もなかった。
どうにか交通整理の仕事についたが、高齢のミチにはきつい仕事だった。
ある日ミチが稲子の家を訪ねると、稲子は家で亡くなっていた。
マリア(ステファニー・アリアン)は夫と娘を国に残し、仲間から紹介されプラン75の関連施設で働くことになった。
ヒロム(磯村勇斗)はプラン75の窓口で働いていた。
かねてよりプラン75のやり方に葛藤を覚えていたヒロムの前に、叔父がプラン75の申請にやってきた。
どうにかしたいヒロムだったが、規則により親族は担当から外されてしまう。
仕事もなかなか続かず住むところもないミチは、ついにプラン75の申請をすることに決めた。
プラン75の利用者だけが貰える10万円も、ミチには使い道がなく困っているところに、コールセンターの瑤子(河合優実)から電話があった。
寸評
「PLAN75」は架空の物語であるがテーマは重い。
その為にあえてドラマ性を排除してリアルな物語として描いているように思う。
ミチの同僚が仕事中にホテル内で倒れるが、倒れる音だけで映像はない。
観客は想像するだけである。
その後にミチたちの処遇が描かれることによって、我々観客は何が起きたのかを知ることになる。
PLAN75の関連施設で働くことになったマリアは遺品整理中に大金を発見するが、その大金をどうしたのかも描かれておらず、それも観客の想像に任せている。
娘の手術費のために盗ったのか、あるいは以前に時計の受領を断ったように届け出たのだろうか?
ヒロムの叔父さんはどうやら火葬時間に間に合わなかったようだが、ではその後どうしたのかも不明のままだ。
物語は架空だが、描かれているのはそんなこともあるだろうなというリアルな出来事である。
そこにドラマはなく、カメラは静かに回されて三人の物語がそれぞれに進んでいくのだが、そのトリミングが絶妙に思え、我々の想像を掻き立てる。
安楽死を認めている国はあるようだが、日本では認められていない。
映画は安楽死を否定も肯定もしていない。
むしろ現行制度である介護保険制度への疑問を感じさせる。
自分で自分のことが出来れば自立していることになるのか。
制度が自立を補助し、自立を目指しているものであるなら、ではそうできない人は一体どうしたらいいのか。
冒頭で青年が、老人が増えすぎたので若者にしわ寄せがきていると述べ、老人を殺して自分も自殺している。
冒頭のショッキングなシーンなのでその主張は耳に残るし、実際に日本ではそのような傾向が顕著だ。
大災害が起きたりパンデミックで社会が止まると、所得の影響を受けるのはフリーターに代表されるような若者たちで、年金生活者の我々老人は何があろうともいつもと変わらぬ年金額を受け取っているのだ。
コールセンタースタッフの新人に“PLAN75に応募した人が考えを変えることがあるが、そうならないように励まさないといけない”とさりげなく語られている。
死を覚悟した人はさっさと亡くなってくれという国家のホンネが見え隠れする。
生きるか、逝くか、僕にも決断を迫られる時が来るかもしれない。
しかし僕はミチさんの選択はとらないと思う。
「おらおらでひとりいぐも」の桃子さんのように一人になっても、“今が一番充実している”という晩年を目指しているのだが、それでもこの映画には切ないものを感じてしまう。
ミチは生きることを選択するが、だからと言ってラストシーンに希望を見出すことは出来ない。
ミチの明日からの状況は変わりなく、彼女は生活苦に直面しながら一人で生きていくことになるのだ。
目前に迫っている老人社会の問題、介護の人材を外国人に頼らねばならなくなってきている現状。
それらに警告を発しながら映画は静かに終わる。
僕が見た時の映画館は高齢者の観客がほとんどであった。
皆さん自分の行く末を案じておられるのだろうか。
僕もその中の一人なのだ。