「ミッション:インポッシブル」 1996年 アメリカ
監督 ブライアン・デ・パルマ
出演 トム・クルーズ ジョン・ヴォイト エマニュエル・ベアール
ヘンリー・ツェーニー ジャン・レノ ヴィング・レイムス
クリスティン・スコット・トーマス ヴァネッサ・レッドグレーヴ
インゲボルガ・ダクネイト エミリオ・エステヴェス
ストーリー
極秘スパイ組織IMFのリーダー、ジム・フェルプスの元に当局から指令が入った。
任務は、東欧に潜入しているCIA情報員のリスト“NOC”を盗んだプラハの米大使館員ゴリツィンと情報の買い手を捕らえることだが、盗まれたのは暗号名の情報だけで本名のリストは別にある。
ゴリツィンはそれを入手するため、明日の大使館のパーティに現れるらしい。
ジムの作戦に従い、イーサン・ハントをはじめとするIMFのメンバーは大使館に向かった。
しかし、作戦は敵に筒抜けで、ハッカーのジャック、工作員のサラ、監視役のハンナにゴリツィンまでが殺され、ジムも銃弾に倒れてしまう。
辛くも逃れたイーサンはCIAのキトリッジに会い、彼からIMFに内通者がいると聞かされる。
今回の作戦はそれを暴くために仕組まれたもので、ゴリツィンは囮だったのだ。
生き残ったイーサンは彼に内通者と見なされ、愕然とする。
彼はキトリッジとの会合の場であるカフェを爆破して逃走し、本当の裏切り者を探そうとする。
大使館の作戦で生き残ったジムの妻、クレアも無事アジトに戻り、イーサンは今までの状況を説明。
キトリッジは、内通者にNOCリストを盗ませたのは武器商人のマックスだと言っていた。
内通者の暗号名が“ヨブ”だと知ったイーサンは、その名を騙ってマックスに会い、ヨブのリストはCIAが用意したニセ物だと伝える。
さらに彼はマックスに取り引きを持ちかけ、全世界のNOCリストをヨブと交換することが決まった。
イーサンとクレアは、CIAを解雇されたタフガイのクリーガーと天才ハッカーのルーサーを仲間に加えて、次の作戦を開始するが、それは何とCIA本部の1室に侵入し、NOCリストを入手しようというのだ。
クレアの陽動作戦が成功し、イーサンは見事、NOCリストのダウンロードに成功した。
これを知ったキトリッジは、イーサンの母と叔父を麻薬密売容疑で逮捕し、彼をおびき出そうとする。
寸評
「スパイ大作戦」は1967年からテレビ放映されたアメリカのテレビドラマで、日本でも人気があり僕も視聴していたのだが、記憶に残るのは何と言っても毎回のオープニングだ。
スパイチームのリーダーであるジム・フェルプスにテープが届けられる。
テープを再生すると、「おはようフェルプス君」で始まり司令が下る。
そして最後に「例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。成功を祈る」とのメッセージが流れ、テープから煙が出て消滅すると言うものだった。
時代が進み、録音テープからビデオテープに代わっているが(これも今となっては懐かしいメディアである)、「おはようフェルプス君」がないものの、オープニングはまさしく「スパイ大作戦」のそれで、往年のファンはそれだけで感涙ものだ。
しかし途中からこの映画は普通のスパイ映画に変質してしまっているので、「スパイ大作戦」を期待した者は裏切られた気分になってしまっただろう。
兆候は当初からあった。
それはメンバーが次々死んでしまうことで、仲間が一致協力して不可能を可能にするという面白さを捨て去っていることだ。
しかし、これは普通のスパイ映画なのだと思って見ると、そして「スパ大作戦」を知らない世代にとっては、リーダーのフェルプスが死んでしまうのも納得でき、彼の生存も容易に想像できるだろう。
新しいスパイ映画としてみると、欧米で秘密組織に潜り込んでいる諜報員の名簿が奪われているという背景が分かりにくいので緊迫感をそいでいるような気がする。
スタイリッシュでスピーディな展開は維持されているのだが、登場人物の人間的な魅力が消されてしまっているのが作品を軽いものにしている。
クレアのエマニュエル・ベアール、マックスのヴァネッサ・レッドグレイヴ、クリーガーのジャン・レノ、ルーサーのヴィング・レイムスなど魅力的なキャスティングがされていながら、彼等のキャラクターは機械的で人間的な魅力を感じないのだ。
フェルプスの妻だったクレアにイーサンが惹かれていく過程、マックスの不気味さと立場、データーの保存メディアを通じたクリーガーとイーサンの思惑などが非常に薄っぺらい。
ベルリンの壁がなくなり、ソ連が崩壊し、東西冷戦が過去のものとなったので、スパイ合戦が非現実的と感じるようになり、作品が裏切りをテーマにしているのも悪くはないが、第一作のテーマがどうしてこれなのかという疑問が湧いてくる。
当初はシリーズ化を考えていなかったのかなあ。
トム・クルーズのスター映画なので、CIAの本部に忍び込んだ場面で空中に浮かぶ彼の姿は目に焼き付くシーンとなっている。
それにしても、ラロ・シフリンのテーマは名曲であったのだと思わされる。
テレビ版でも使われたこのメロディがあちこちで使われていることが証明している。