おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

岬の兄妹

2023-04-05 07:42:36 | 映画
「岬の兄妹」 2018年 日本


監督 片山慎三
出演 松浦祐也 和田光沙 北山雅康 中村祐太郎 岩谷健司 時任亜弓
   ナガセケイ 松澤匠 芹澤興人 荒木次元 杉本安生 風祭ゆき

ストーリー
とある港町造船所で働く良夫(松浦祐也)は、右足が上手く動かないという障害を持っていて、妹の真理子(和田光沙)は自閉症で、体は大きくても小さな子供のままだった。
目を離せないので鍵を閉めて仕事に行く良夫だったが、真理子はまたいなくなった。
真理子の迷子札を見て男性が保護して車で送ってくれたが、帰ってきた真理子を風呂に入れる時に衣服のポケットから一万円が出てきて、さらに下着からは男の体液のようなものがべったりと付いていた。
良夫は不景気のため造船所をクビになり、いよいよ家賃が滞り、電気まで止められてしまった。
やたらと外に出たがる真理子を連れ、ふと閃いた良夫はパーキングエリアに行き妹に売春をさせる。
何故か楽しそうな真理子に困惑するも、生きるために良夫は売春を続けていく。
やがて真理子が妊娠してしまったが、子供を堕ろすにも金がなく、良夫は時期的に子供の父親に違いないと思われる中村くん(中村祐太郎)に会いに行く。
しかし中村くんは逆ギレ、結婚どころか堕ろして当然とまで言われてしまう。
落ち込む良夫に造船所から、人が辞めたからまた働かないかと言われたが、あまりにも都合のいい話に良夫は憤りを覚える。
家に帰ると真理子は気持ちよさそうに寝ていたので、良夫は手に持ったブロック石を振り上げ真理子の頭に打ち付けようとした時、ふと真理子のお腹に目がいった。
そこにも命がある…、良夫はどうすればいいのか分からなくなった。
翌日、真理子が良夫にお気に入りの貯金箱を差し出すと、いつのまにか貯まっていたお金は下ろすことができる程になっていた。


寸評
タブーに挑んだような作品で決して明るい内容ではなく、また未来への希望を感じさせる内容でもないのにグイグイ引っ張る作品になっているのがスゴイ。
イジメられっ子の少年が無理やり真理子と初体験をさせられ、「生きていれば楽しいことも有るのですね」と言うのだが、この兄妹にそのような日々が訪れることを期待できるのだろうか。
良夫と真理子の兄弟は極貧の最下層に属する生活を送っている。
兄は片足が不自由な障碍者だし、妹は精神薄弱で淫乱の傾向もある。
良夫がリストラにあって生活費もままならない兄妹は家賃も電気代も払えない。
唯一の救いは良夫の友達らしい肇くんがいるぐらいである。
どうしようもない生活を送る兄妹を演じた松浦祐也と和田光沙のリアルすぎる存在感がこの映画を支えている。
特に真理子を演じた和田光沙の存在感が凄まじい。
脱ぎっぷりも凄いと思うのだが、それが卑猥でもなくエロチックでもない普通の姿に見えてしまうほどの自然体であることがこの映画の凄さでもある。
真理子の幼い頃の出来事としてブランコに揺られながら快感に浸る姿が描かれる。
ビックリするようなシーンとなっているのだが、真理子がセックスに積極的なのは持って生まれたものなのかもしれないと思わせる。
真理子が小人症の中村くんと度々の売春行為を行ったことで、良夫は中村くんに真理子との結婚を頼みに行く。
それは兄心からではなく厄介者を押し付けるためであって、見透かされたように中村くんから冷たくあしらわれるのだが、この時の中村祐太郎の演技もすごい。
和田光沙といい、中村祐太郎といい、この映画ではハンデを背負った人の描写が凄いとしか言いようがないもので圧倒される。
生きることの過酷さを描いていて、とても障碍者の性といった視点だけで語られるべき作品ではない。

兄は生きるために妹に売春をさせる。
ひどい仕打ちだと思うのだが、妹には充実した日々だったのかもしれないと思わせるところもある。
どん底の生活を味わっている兄妹なので、彼らは社会保障制度によって補助を受けられるはずなのにまったくその手続きを取っていない。
彼らの無知によるものなのか、社会はそんな彼らを見捨てているのか、彼らは一向に救われない。
産婦人科医は堕胎手術に7~8万はかかると言っていたが、どうやらか売春でいつの間にか貯まっていた金で堕胎できたようである。
売春行為で身ごもった子供を、売春行為で貯めた金で堕胎すると言うバカバカしい事をやっている。
堕胎を行った真理子は以前と人が変わったような表情で海辺にたたずんでいる。
そんな真理子を見つめる良夫の携帯が鳴るが、おそらく売春の相手からだろうから良夫はどうするのだろう。
何も変わらない以前の生活に戻るしかないのだろうか。
真理子の売春行為をやめる決断をしてほしいと願う。
真理子を見捨てられない良夫との兄妹愛が切なすぎる。
見終った時に僕は心の中でつぶやいていた、「生きるしかないのだ」と・・・。