「壬生義士伝」 2002年 日本
監督 滝田洋二郎
出演 中井貴一 三宅裕司 夏川結衣 中谷美紀 村田雄浩
佐藤浩市 塩見三省 堺雅人 野村祐人 斎藤歩
加瀬亮 山田辰夫 伊藤淳史 伊藤英明
ストーリー
明治三十二年、東京市。
冬のある夜、満州への引っ越しを間近に控えた大野医院に病気の孫を連れてやってきた老人・斎藤一は、そこにかつて新選組で一緒に戦った隊士・吉村貫一郎の写真を見つける…。
盛岡の南部藩出身の貫一郎は、純朴な外見に似合わない剣術の達人であった。
が、その一方で名誉を重んじ死を恐れない武士の世界に身を置きながら、生き残ることを熱望し、金銭を得るために戦った男でもあった。
全ては、故郷で貧困に喘ぐ家族のため。
脱藩までして新選組に入隊した彼には、金を稼ぎ、愛する家族のために生き残る必要があったのだ。
斎藤はそんな貫一郎を嫌ったが、反面、一目置くところもあった。
時が過ぎ、大政奉還。
一転して賊軍となった新選組は、官軍の制圧に遭い壊滅状態に陥る。
ところが、貫一郎だけは脱藩で裏切った義を二度と裏切れないと、たったひとりで最後まで戦い抜いた。
そして、傷ついた彼は大阪蔵屋敷の差配役として赴任していた幼なじみの大野次郎右衛門の情けで、官軍に引き渡されることなく、故郷を想いながら切腹したのだった。
思いかけず、次郎右衛門の息子・大野千秋から、気になっていた貫一郎の最期を聞くことが出来た斎藤。
彼は、貫一郎の娘で今は千秋の妻となった小児科医・みつの診断を終えた孫を連れ、夜の道を帰っていった。
寸評
主人公の吉村貫一郎は架空の人物であるが、南部藩盛岡の出身である。
南部藩は江戸時代に何十回も飢饉に襲われた過酷な藩であったことは事実の様だ。
彼は剣術に優れ学問も有しているようなのだが、下級武士のため貧困に苦しんでいて、口減らしにために妻は自殺を試みているという極限状態に身を置いている。
その為、彼は脱藩し新選組に入隊するのだが、いわば二度と帰れぬ出稼ぎに出たわけだ。
そんな状況を考えると妻の吉村しづ(夏川結衣)はちょっと元気すぎるなあ。
それは夏川結衣のキャラクターによるもので致し方のないことか。
新選組は物語になりやすい集団で数々の作品に登場する。
近藤、土方、沖田などが何度も描かれてきたが、ここでは近藤勇を俗物として描いている。
しかし近藤は脇役にしか過ぎず、新選組の主人公は佐藤浩市が演じる斎藤一だ。
斎藤一は剣豪としてしられ、描かれたように左利きだったことも事実らしい。
永倉新八などと同様に新選組の生き残りとして明治維新後も生き延びた。
後に新政府側の警察官となり、西南戦争にも従軍し宿敵だった薩摩と闘い積年の恨みを晴らしたようだ。
そのことはともあれ、斎藤は人のよさそうな馴れ馴れしい吉村を気に食わない。
気に食わない男は判らぬところで切り捨てている男である。
斎藤は近藤に媚びを売る谷三十郎も気に食わないでいる。
浪士襲撃の時にその谷が卑怯な振る舞いをするのを目にして彼を暗殺する。
犯人かどうかは分からないが、彼が犯人であることは明白だ。
ちなみに谷三十郎暗殺事件は本当にあって、その犯人は斎藤一だと疑われていたこと、暗殺を命じたのは土方歳三だったなどという説もある。
土方が暗殺を命じたのは谷の息子が近藤の養子となって、谷が増長してきたことを不快に思ったことによるというものらしいが、作中でも息子の周平(加瀬亮)が養子になるシーンが描かれていた。
斎藤は吉村も始末しようとしたが互角の腕のため殺害を断念する。
そこからは吉村の新選組での命を惜しむ守銭奴としての姿と、南部藩時代の出来事が交互に描かれていく。
彼が命を惜しむのは愛する家族に会いたいためであり、守銭奴と化しているのは貧困に苦しむ家族に仕送りを行うためである。
それからすればこれは紛れもなく家族愛の物語なのだが、どうもそのあたりのパンチ力が弱い。
さげすまされながらも義に生きた吉村という視点にしても切り込み不足感がある。
吉村は伊東甲子太郎(斎藤歩)に脱隊に誘われるが、藩を裏切った自分は二度裏切ることはできないと断る。
その毅然とした態度に斎藤も意外だと思うのだが、吉村の抱いている義がどの程度のものであるのかは、その一件だけでは描き切れていなかったと思う。
従って吉村の最後も間延びしていたし、南部藩が大野次郎右衛門(三宅裕司)の主張で奥羽列藩同盟に加わり政府軍に立ち向かうことも盛り上がりに欠ける結果となっていたように思う。
僕は吉村貫一郎より斎藤一の描かれ方に興味が持てた。