「マルタの鷹」 1941年 アメリカ
監督 ジョン・ヒューストン
出演 ハンフリー・ボガート メアリー・アスター ピーター・ローレ
シドニー・グリーンストリート ウォード・ボンド
グラディス・ジョージ エリシャ・クック・Jr
バートン・マクレーン ウォルター・ヒューストン
ストーリー
サンフランシスコのスペード・アンド・アーチャー探偵事務所にワンダリーという女性の依頼人がやってくる。
妹が家出したので見つけ出してほしいという用件で、手がかりはフロイド・サースビーという男だった。
ワンダリーが彼に会った後、サム・スペードの相棒のアーチャーがサースビーを尾行したが、その夜アーチャーは殺されてしまう。
サム・スペードはワンダリーに連絡を取ろうとするが、彼女は宿泊先のホテルをチェックアウトしていた。
その後サースビーまで殺されたため、スペードは警察の尋問を受けることになった。
翌日、再びスペードと会ったワンダリーは、自分の本名がブリジッド・オショーネシーであること、妹などおらず、サースビーは自分を裏切った相棒であることを告白した。
間もなくスペードの所へ、ジョエル・カイロという男がサースビーについて何か知っているか探りに来た。
彼は自分が黒い鷹の像を探していることを告げた。
スペードの前にはさらにガットマンという名のいかがわしい人物が現れ、その太った男は黒い鷹の像のいわれをスペードに説明した。
ガットマンは高い価値のあるその像の行方を追っていた。
スペードは彼から睡眠薬入りの酒を飲まされ昏倒し、しばらくしてから無事に目を覚ました。
その間にブリジッドは香港から貨物船で届けられる小包をスペードの事務所に届けるように手配していた。
船長自ら事務所に来るが、撃たれていた彼は荷物をスペードに渡して死亡する。
その中身が鷹の像だと知ると、スペードはそれを駅の荷物引受所に預けて引換券を受け取った。
事務所に帰ると、ブリジッド、カイロ、ガットマン、それにガットマンの手下・ウィルマーが勢揃いしていた。
彼らと話し合ったスペードは、これまでの殺人罪でウィルマーを警察に突き出すという条件を持ち出し、鷹の像を彼らに渡すと約束したのだったが・・・。
寸評
原作はハードボイルドの古典ということだが、ハードボイルドの定義って何だろう。
僕が思うに、感情に流されない非情な面を持ち精神的にも肉体的にも強靭な男が主人公にしているものとの認識で、探偵を主人公にしたものなら思考を巡らせて謎を解いていく探偵に対して、前述のような性格を持つ行動的な探偵を主人公にしているのがハードボイルド映画と称されていると思う。
そのような面から見ればサム・スペードは相棒のアーチャーが殺されても死体に駆け寄ることもしないし、秘書にその後の対応を任せて感情をあらわにせず、女に甘いところもない、正にハードボイルド映画の主人公である。
物語はミステリー性を持ってスタートする。
ワンダリーと言う女性が行方不明の妹の捜索を依頼し、サースビーと言う男を手掛かりにアーチャーが尾行を開始するが、アーチャーもサースビーも殺されてしまう。
二人を殺した犯人は一体誰なのかが最初の興味となる。
ワンダリーは偽名だったことが分かり、ブリジッドが重要な人物となり、興味は彼女に移っていく。
やがてカイロという男やウィルマーという男が登場し、彼らが殺人犯ではないかの疑問が湧き上がる。
姿を現さない太い男とは誰なのかとか、一体誰が殺人犯なのかとなるのだが、僕にはそこからの展開がどうも軽いように思えてしまってあまり作品に乗り切れないでいた。
マルタの鷹を追っているボスがガットマンという太った男なのだが、この男がマルタの鷹の秘密であるとか、香港から到着した船の火災の原因とか、船長の殺害についてなどをスペードに話しているのだが、彼がそのような詳細をスペードに話す必要があったのだろうか。
そもそも彼の手下のようなカイロやウィルマーが何とも頼りなくて、とてもスペードに対抗するような男ではないことが緊迫感を欠いている原因だ。
いともも簡単にのされてしまうし、隠し持った拳銃も簡単に取り上げられてしまうので、とてもスペードの相手にはならない。
彼らに比べれば遥かにスペードの秘書のエフィの方が頼りがいがあるように見える。
彼女はスペードが電話で指示する時の相手だったりして、あまり登場しないが本当に優秀な秘書なのだ。
優秀さにおいて二人の男は完全に彼女に負けている。
アーチャーの女房がスペードに片思いをしていてモーションを掛けているのだが、スペードは軽くあしらっている。
彼女が美しい依頼人のブリジットとスペードが親しくしているのに嫉妬する場面があり、彼女の存在は面白いと思ったのだが、それ以上描くとハードボイルドの雰囲気が壊れたのだろう。
ブリジットとスペードの間にある男と女の感情も同様の理由で深くは描かれていないのだろう。
その為に最後にスペードがブリジットに取る非情な行為に、僕はあまり感動しなかった。
スペードは「相棒のことをどう思っていようと、相棒が殺されたら犯人を捕まえないとこの稼業は成り立たない」と言っているのだが、スペードの様子からはそのような気持ちがあるとは見えなかったなあ。
マルタの鷹を持った刑事が「重いな、何が詰まっているのだ」と聞くと、スペードは「夢が詰まっている」と答える。
最後を締めるセリフとしては決まっていた。