おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

宮本武蔵 二刀流開眼

2023-04-14 07:12:16 | 映画
「宮本武蔵 二刀流開眼」 1963年 日本


監督 内田吐夢
出演 中村錦之助 入江若葉 木村功 浪花千栄子 阿部九州男
   竹内満 木暮実千代 丘さとみ 江原真二郎 平幹二朗
   河原崎長一郎 南廣 香川良介 国一太郎 鈴木金哉
   遠山金次郎 薄田研二 堀正夫 神田隆 片岡栄二郎
   外山高士 波多野博 江木健二 谷啓

ストーリー
般若野で不逞の浪人の群を倒した武蔵は城太郎をつれて柳生石舟斎宗厳の城に向い、この剣聖と剣を交えようとしたが果せない。
吉岡清十郎の弟伝七郎もまた石舟斎に会おうとするが、お通を通して拒絶されてしまう。
一方、武蔵は柳生四高弟と剣談を交えるところまでこぎつけたが、城太郎が紀州公より賜った柳生家の愛犬を打ち殺したことから、高弟たちと対立した。
そのとき、お通の笛の音が流れ、ハッとした武蔵の袖口が相手の真剣に大きく裂けた。
瞬間、武蔵は小刀を抜き放って、図らずも二刀流の構えを見せる。
翌日、右舟斎の庵の前に立った武蔵は庵内にお通の姿を認め、お通も武蔵に気付いた。
が、次の瞬間、武蔵は逃れるように姿を消した。
そのころ、吉岡の門弟祇園藤次は旅先で燕返しの秘剣を身につけた佐々木小次郎を知り、更にふとしたことから清十郎も彼の太刀さばきを見て、小次郎を吉岡道場の客として招き入れる。
さて、伏見城の改修工事に従事していた本位田又八は、小次郎あての免許皆伝の状を偶然手に入れ、小次郎の名を騙って京に出たが、そこで、清十郎に体を奪われた上、母お甲は藤次と逐電、という悲運に見舞われた朱実に逢い、それがもとで小次郎に化けの皮をはがされる。
一方、清十郎ばついに宿敵武蔵との対決を決意した。
五条大橋で「洛北の蓮台寺野で、九日の卯の下刻」とあるこの高札を朱実も、お通も見ていた。
そして武蔵も―――。しかし、武蔵の眼は遠く枯柳に寄りかかっている小次郎にそそがれていた。
二人は宿命的ななにかを感じたようであった。
小次郎に止められたが、清十郎はひくにひけず、その日は来た・・・。


寸評
前作のラストシーンから始まり物語の連続性が保たれる。
宝蔵院との戦いを終えた武蔵は柳生の里を訪れ、柳生石舟斎との立ち合いを熱望する姿から始まる。
柳生の里では吉岡清十郎の弟である伝七郎も登場するが、プライドだけが高くて腕は大したことがない事が描かれ、後の対決の興味はそがれる形となっている。
石舟斎、武蔵が共にその腕のただならぬことを見抜くシーンはなかなか面白い。
武蔵は柳生の高弟たちと立ち会い、とっさに小太刀も抜いて二刀流の構えを取る。
宮本武蔵と言えば二刀流と連想ゲーム的に思い起こすが、二刀を構えた武蔵に対し、柳生の高弟が「二刀流・・・」とつぶやくことで二刀流の誕生を描いている。
真剣の重さを考えると二刀を構えるのには相当の腕力が必要だと思われる。
肖像画その他から武蔵は180センチはあったと思われ、当時としては大男でそれくらいの腕力があったのだろう。
ここで咄嗟にとった構えが副題となっている「二刀流開眼」となるわけだが、二刀流の構えはこの一度きりで再び見せることはない。
武蔵は自然と共に生きる石舟斎の心を読み取り柳生を去るが、求道者としての成長を物語るシーンでもあった。
すれ違い物語の側面も持っているので、ここで出会ったお通と言葉を交わすことはなく別れてしまう。

やがて雌雄を決することになる佐々木小次郎が登場する。
吉岡清十郎は門弟と争う小次郎を見てなかなかの使い手であることを見抜くが、小次郎も馬から飛び降りた清十郎の動きを見てその腕を評価する。
しかし道場で弟子と打ち合う木剣の響きを聞いて小次郎は清十郎の腕も大したものではないと悟る。
こうなってくると、武蔵と吉岡兄弟の対決は結果が出たようなものだ。
清十郎の弱さは何かにつけて描かれ、弟伝七郎の腕も柳生での出来事で描かれているからだ。
それでも名門の意地で清十郎は武蔵との決闘に出向く。
創業家の二代目で、先代の威光と実力差に悩んでいるが家業(道場)を継がねばならない宿命があって、プライドと威厳を保とうとする姿は現代社会にも通じるものだ。
柳生石舟斎が言うようにプライドだけが高い名家の子は始末に負えないということだろう。

武蔵は吉岡一門と三度対決するが、第一戦目が清十郎との蓮台寺野での決斗で、本作でそこに至る経緯が描かれている。
予想通り清十郎は武蔵の敵ではなく一撃で倒される。
腕の骨を木っ端みじんに打ち砕かれており、小次郎によってその腕を切り落とされる。
名門吉岡のプライドから戸板を降りて歩いて帰ろうとするが、その姿は敗れた兵法者の無残な姿である。
武蔵もいつそうなるか分からない道を歩んでいるが、その光景を見たお通も武蔵の歩む道の険しさを知ったことだろうし、恐怖心も持ったのではないかと思うのだが…(読み過ぎか?)。
武蔵は所詮やる相手ではなかったと立ち去るが、その時夕日が真っ赤に染まる。
内田吐夢が好きそうな幕切れだった。