「続・宮本武蔵 一乗寺の決闘」 1955年 日本
監督 稲垣浩
出演 三船敏郎 鶴田浩二 堺左千夫 平田昭彦 藤木悠 加東大介
東野英治郎 尾上九朗右衛門 御橋公 高堂国典 谷晃
八千草薫 岡田茉莉子 水戸光子 木暮実千代 滝花久子
ストーリー
鎖鎌の達人宍戸梅軒(東野英治郎)と戦って勝った宮本武蔵(三船敏郎)は、そのまま京への道を歩んで行く。
その彼を追い求めているのはお通(八千草薫)と朱実(岡田茉莉子)であった。
やがて京の三条大橋に現われた武蔵は、そこで待ちわびて居たお通に逢った。
そこへ吉岡道場の一味が現われ、武蔵はお通をかばいながら激しく斬り合ったが、それを橋上から眺めているのは物干竿と呼ばれる大刀を持った佐々木小次郎(鶴田浩二)である。
武蔵を見失ったお通は、清十郎に恥ずかしめられた朱実に出会ったが、二人共求める男が武蔵であることを知ると、朱実は嫉妬をあからさまに示した。
その頃、修行の旅から帰って来た吉岡伝七郎(藤木悠)は、兄清十郎(平田昭彦)の不甲斐なさに武蔵を討つ決心をしたが、三十三間堂での戦いで逆に斬られてしまった。
雪の夜、伝七郎を討ち、そっと廓に戻った武蔵の袖の血を、吉野大夫(木暮実千代)が懐紙で拭った。
やがて武蔵と清十郎の対決する時が来た。
一乗寺下り松では、門弟等大勢が武蔵をだまし討ちにしようと待ち構えていた。
小次郎が立合いに来たが、その外お通と朱実もかけつけ、お杉(三好栄子)と又八(堺左千夫)もそれを追った。
やがて武蔵が現われ鉄砲が火を吹き、いつしか二つの剣を持って戦う武蔵は手傷を負っていた。
やがて門弟に謀られて遅れた清十郎もやって来て武蔵と対決した。
武蔵の勝ちであった。
谷川のほとりで傷を癒やす武蔵とお通。
心をかき乱された武蔵はお通を枯草の上に倒した。
驚き身を退けるお通、はッと我に返った武蔵は起き上って姿を消し去った。
寸評
脚本が大きく原作から隔たっているのが3部作のうちのこの続編である。
吉岡清十郎との対決の前に、弟の伝七郎と戦っている。
伝七郎は兄の敵討ちではなく、兄のふがいなさを見て先に三十三間堂で対決している設定だ。
一乗寺下り松の決闘における名目人は子供ではなく、吉岡清十郎その人がたっているが、門人の配慮でその場所にはいない。
吉岡清十郎は武蔵との戦いに敗れ、そのことをもって武蔵と吉岡一門との勝負はついたとしている。
大きな改変はそのあたりだろうが、意図はよくわからない。
始まりはいきなりの宍戸梅軒との対決であったが、しかし勝負は意外とあっさりと決着がつく。
僕の記憶では宍戸梅軒との対決は吉岡一門との対決の後だったように思う。
二刀流をここで見せるが、梅軒の鎖鎌に対抗することで二刀流に開眼したというイメージはない。
吉岡清十郎の弟の伝七郎は三十三間堂で武蔵と対決するが、その決闘場面はなぜか省略している。
宍戸梅軒といい、吉岡伝七郎といい、どちらの決闘場面も迫力のないものだ。
これは僕の想像だが、その後に起きる一乗寺下り松での戦いを際立たせるために、あえて簡略化したのではないかと思う。
実際、一乗寺下り松の戦いは田んぼやあぜ道を上手く使って、緊迫感のある戦いの場面を生み出していた。
多勢に無勢で、さすがの武蔵も終わりかと思われる中、足場の悪い水田に吉岡勢を誘い込み、自分は足場の良いあぜ道にいて、そこを進んでくる相手を一人ずつやっつけていく。
その戦い方を高台にいる佐々木小次郎が解説者のように実況中継するのが面白い。
本作は宮本武蔵恋愛編と言ってもいいかも知れない。
武蔵を取り巻く女性たちの姿がかなりのウェイトで描かれている。
朱実とお通の恋のさや当ても描かれているし、吉野太夫の武蔵への思慕の姿も描かれている。
その他にも吉岡清十郎と朱実、祇園藤次とお甲の関係、佐々木小次郎と朱実など、男と女が絡むシーンが意外と多い。
男が主人公の映画であるが、案外と男と女の関係が控えめながらも描かれていて雰囲気を変えていた。
そして、強い男の象徴として武蔵があり、その対極の男として又八を登場させている。
又八は妻のお甲が祇園藤次と旅立つ時にぶつかり倒れるが、酔っていたのでそれに気づかない。
又八は重要な登場人物だと思うのだが、この後に登場することはない。
本作で宿敵の佐々木小次郎が登場するのが大きな出来事だが、キャスティングはなぜか本位田又八が三国連太郎から堺左千夫に代わっている。
東映版では高倉健が、この東宝版では鶴田浩二がそれぞれ佐々木小次郎を演じているが、後に任侠映画を支えた二人が共に佐々木小次郎を演じているのが興味深い。
そして、この時点では明らかに佐々木小次郎の方が剣の腕が勝っているような描き方だった。
お通はどうして武蔵を拒絶したのかなあ。
突然のことで思わず…ということなのだろけれど。