{ぬ}は2019/12/16から「ヌードの夜」「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」を紹介していますが、それ以外に思いつきませんので今回はスキップです。
「ね」は2019/12/18の「眠らない街 新宿鮫」「眠狂四郎 勝負」
2021/8/23の「寝ずの番」「ネットワーク」「寝ても覚めても」「寝盗られ宗介」を紹介しています。
「ね」も今回は紹介なしです。
「の」は2019/12/20から「野いちご」「ノーカントリー」「ノー・マンズ・ランド」「野のなななのか」「野火」「野火」「野良犬」を紹介し、
2021/8/27に「の・ようなもの」を紹介しています。
今回は「ノスタルジア」と「ノッティングヒルの恋人」だけです。
今年最後の作品となりました。
「ノスタルジア」 1983年 イタリア / ソ連
監督 アンドレイ・タルコフスキー
出演 オレグ・ヤンコフスキー エルランド・ヨセフソン
デリア・ボッカルド ドミツィアーナ・ジョルダーノ
ストーリー
イタリア中部のトスカーナ地方。
詩人のアンドレイ・ゴルチャコフは、通訳のエウジェニアと共にモスクワからこの地にやって来た。
目的は、18世紀にイタリアを放浪し故国に帰れば奴隷になると知りながら帰国し自殺したロシアの音楽家パヴェル・サスノフスキーの足跡を追うことだが、その旅ももう終わりに近づいていた。
温泉で知られるバーニョ・ヴィニョーニの宿屋で、アルセニイ・タルコフスキーの詩集をイタリア語に訳して読んでいるというエウジェニアに、アンドレイは反論する。
「すべての芸術は訳することができない。お互いが理解しあうには国境をなくせばいい」と。
シエナの聖カテリーナが訪れたという広場の温泉に湯治客が訪れている。
人々が狂人と呼ぶドメニコは、世界の終末が真近だと感じ家族を7年間閉じこめた変人だ。
ドメニコを見かけたアンドレイは彼に興味を示すが、エウジェニアは、いらだったようにアンドレイの許を去った。
ドメニコのあばら屋に入つたアンドレイは、彼に一途の希望をみた。
ドメニコは、広場をろうそくの火を消さずに往復できたなら世界はまだ救われるというのだ。
アンドレイが宿に帰ると、エウジェニアが恋人のいるローマに行くと言い残して旅立った。
ローマに戻ったアンドレイは、エウジェニアからの電話で、ドメニコが命がけのデモンストレーションをしにローマに来ていることを知った。
寸評
絵画的、あるいは写真家が切り取ったような画面とシーンが続き、その映像美に酔いしれ映像芸術の極致を見る思いがするのだが、僕にはそれだけの作品に思えて退屈だ。
観念的であり事件も起こらないから、この作品は半ば拷問的でもある。
退屈しながらぼんやり見ていると時々ハッとするシーンに出くわし眠気を覚まさせる。
現実の世界は見事な構図で収められ、教会のシーンはもとよりドメニコが暮らす廃墟のような建物すら美しいし、そこに滴り落ちる雨漏りさえも美しく感じてしまう。
アンドレイが過去を振り返るシーンや、彼が空想するシーンはモノトーンで表現されているのだが、時折切り替わるそのモノトーンの映像が新鮮に感じられ、これまた美しい映像美を見せる。
映画は娯楽という一面を有している芸術だが、娯楽の定義を語れば枚挙にいとまがなくなってしまうが、単純に面白さを楽しめると言ってしまえば、僕にはこの作品にそんな要素を見出すことはできない。
もっと単純に言えば面白くないのである。
その一言だけをもってして、僕はこの手の映画はあまり好きになれない。
膨らませる要素は結構あるのだが、そちらの方向にはいかないもどかしさがある。
詩人のアンドレイと通訳のエウジェニアの関係は愛人関係のような所もあり、エウジェニアはアンドレイに浮気もできないとなじって恋人の居るローマに行ってしまう。
二人の関係に物語はそれ以上立ち入ることはしない。
不倫映画、愛情映画ではないのだ。
アンドレイは「すべての芸術は訳することができない。お互いが理解しあうには国境をなくせばいい」と言うが、それは世界平和につながる言葉でもある。
一方、ドメニコは「ろうそくの火を消さずに温泉を往復できたなら世界はまだ救われる」言っていて、アンドレイがそれを実践しようとしているから、そこを見れば世界平和を訴える作品と思えなくもない。
しかし全体から受ける印象にはそんなテーマを感じ取ることはできない。
唯一盛り上がりを感じたシーンはその後に続くドメニコの焼身自殺のシーンだ。
ドメニコの演説を階段で聞き入る人々の配置は演劇的で画面を抑えきるものがある。
音楽が流れドメニコがガソリンをかぶり自身に火をつける。
僕には彼の死の意味がよく分からなかった。
彼の死と引き換えるようにアンドレイはロウソクの火を消さずに湯のない温泉を渡り切る。
世界の終末を感じていたドメニコが死に、アンドレイの行為によって世界は救われたということだろうか。
アンドレイの死期も近づいてきていて、その期に及んで彼は家族の、母の記憶を呼び起こしたということなのか。
よくわからん。
想像することもできない、よく分からないから、だから面白くない。
美しすぎる映像だけが印象に残る作品だ。