おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

未来を生きる君たちへ

2023-04-20 07:18:23 | 映画
「未来を生きる君たちへ」 2010年 デンマーク / スウェーデン 


監督 スサンネ・ビア                    
出演 ミカエル・パーシュブラント トリーヌ・ディルホム 
   ウルリク・トムセン ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン
   マルクス・リゴード トーケ・ラース・ビャーケ ビアテ・ノイマン 

ストーリー                         
少年エリアスはデンマークで母マリアンと幼い弟のモーテンと暮らしているが、毎日学校で執拗なイジメにあっていた。
父のアントンは医師としてアフリカの地に赴任し、キャンプに避難している人々の治療を行っている。
様々な患者の中には妊婦の腹を切り裂く悪党“ビッグマン”の犠牲者もいた。
父親のアントンが大好きなエリアスはその帰国を喜ぶが、両親は別居中である。
ある日、母親の葬式を終えたクリスチャンが、エリアスのクラスに転校してくる。
その放課後、イジメっ子のソフスにエリアスは絡まれ、クリスチャンも巻き添えを食らう。
翌日、クリスチャンはソフスを殴り倒し仕返しをする。
ソフスの怪我が表沙汰になり、呼び出された父親クラウスは、報復にはきりがないと諭すがクリスチャンはやり返さなきゃだめだと口応えする。
帰国したアントンが、子供たちとクリスチャンを連れて出掛けた帰り、モーテンがよその子と公園でケンカになった。
割って入ったアントンだが、駆け寄って来た相手の子の父親に、理由も訊かれずに殴られてしまう。
翌日、クリスチャンとエリアスが自分を殴った男ラースの職場を割り出したことを聞いたアントンは、子供たちとラースの職場を訪れる。
殴った理由を問いただすアントンを、ラースは再び殴るが、アントンは決して手を出すことなく、屈しない姿を子供たちに見せた。
帰り道、殴るしか能のない愚か者だとラースを評するアントンに、エリアスとモーテンは同調するが、クリスチャンは報復しなかったアントンに納得がいかない。
アントンがアフリカへと戻った後、祖父の作業場で大量の火薬を発見したクリスチャンは、爆弾を作ってラースに復讐しようとエリアスに持ち掛ける。
一方、アフリカのキャンプでは脚に怪我を負ったビッグマンがやって来る。
アントンは周囲に反対されながらもビッグマンの治療を行うのだが…。


寸評
クリスチャンを演じたウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセンがいい。
少年期の多感なそれでいて恐ろしさを秘めた姿を、その目力で見事に演じていた。
大きなテーマとなっているのは「復讐と赦し」だ。
復讐が暴力の連鎖を招くと考え、徹底して否定するエリアスの父アントンに対して、やられたらやり返すべきだと考えるクリスチャン。
大人の対立、子供の対立ではなく、世代の違う2人を対比させた構図がユニークである。
クリスチャンの父親も暴力の連鎖を否定しているので、クリスチャンの考えは父の教えではなさそう。
彼は母親をガンで亡くし、父親に対して複雑な感情を抱いていることも、その考えの底にあると思わせる。
一方は母への思慕を持ち父を毛嫌いし、一方は父を敬愛し母を疎ましく思っている構図も対比的で、全体構成を膨らませている。
その2組の父子の微妙な心のすれ違いが巧みに映し出されていく過程がなかなか良い。
後半になっていくと、孤独なクリスチャンの過激な行動を中心に据え、父子関係により強く焦点が当たり、映画全体に迫力が出てくる。
アントンがアフリカで地元の極悪人を治療すべきかどうかで苦悩するエピソードを加えて、より深くテーマに迫るが、常に冷静なアントンが切れることにより、簡単に結論の出るテーマではないことを印象付けた。

エリアスとクリスチャンは、お互いにかばい合い裏切ることはない。
きっと一生のいい友達になるだろうと思う。
そして2組の親子の再出発を印象付ける希望にあふれたエンディングで感動的だった。
夫婦の再生まで描くのは、やり過ぎのような気もするが、「復讐と赦し」と同時に「恨みと赦し」もあるので、その具現化だったのだろう。
エンドタイトルのバックに大自然や自然の営みが映し出されたので、それはある種監督のメッセージであるかのように感じた。

「未来を生きる君たちへ」への君たちは、エリアスとクリスチャン、そして私達だと思うのだが、それにしてもこの邦題は何とかならなかったものか?