おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 寅次郎と殿様

2022-03-30 08:02:33 | 映画
「男はつらいよ 寅次郎と殿様」 1977年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 真野響子 嵐寛寿郎
   三木のり平 下絛正巳 三崎千恵子 前田吟
   太宰久雄 佐藤蛾次郎 中村はやと 吉田義夫
   寺尾聡 平田昭彦 笠智衆 斉藤美和

ストーリー
鞍馬天狗の夢からさめた寅さんは、柴又が恋しくなり小さな鯉のぼりを買って勇んで帰って来た。
この鯉のぼりは、最愛の妹・さくら夫婦の一人息子満男のためのものだった。
ところが、さくら夫婦が、やはり満男のためにと大きな鯉のぼりを買ったばかり。
博は寅の心情を知り、庭先の鯉のぼりをいそいでおろすが、寅さんは「みずくさい」と一言いって怒る。
おまけにとらやでは最近、拾ってきた犬に「トラ」と名づけていたから大変。
寅さんは自分が呼び捨てられているものと勘違いして大喧嘩。
例によって柴又を去っていって、愛媛県大洲市を旅することに。
この古い城下町にやって来た寅さんは、墓参りをしている美しい人に一目ぼれ。
その夜、偶然にもその人と旅館がいっしょになって、親に大反対されながらも一緒になった夫が、数カ月前突然亡くなったという身の上話を聞き、しんみりとする。
翌朝、寅さんは持前の気っぷの良さを発揮し、「何かあったら柴又のとらやを訪ねてくれ」といって別れた。
その直後、ふとしたことから時代劇口調の変な老人と寅さんは知り会い、妙に二人は馬が合った。
実はこの変な老人とは、大洲藩十八代目当主・藤堂宗清であり、その夜宗清のお屋敷に連れていかれた寅さんは、そこで、急死した息子の話を聞かされ、その息子の嫁・鞠子に二人の結婚のことを反対したことをあやまりたいという宗清の気持ちに打たれるのであった。
そして、持ち前の義侠心を発揮した寅は東京で鞠子を見つけ出すことを約束して大洲を去った。
それから10日後、待ちきれなくなった宗清は柴又に寅を訪ねて来た。
丁度タイミング良く寅も旅から帰って来たのだが、驚いたのはとらやの連中で、何しろ、この広い東京の中から一人の娘を捜し出さなければならないのだ。
そんなある日、寅さんが大洲で会った美しい女性がとらやを訪ねてきた。


寸評
漫才のつかみ、落語の枕とでもいうべき導入部が満男のための鯉のぼり騒動なのだが、それよりも野良犬のトラ騒動が笑わせる。
今回のマドンナ役は真野響子なんだけれども、彼女への片思い騒動は軽いものですぐに決着がついている。
ゲスト出演は真野響子というより断然副題となっている殿様の嵐寛寿郎に存在感がある。

僕らの世代にとっては嵐寛寿郎、通称アラカンと言えば鞍馬天狗で、杉作少年はあの不世出の大歌手美空ひばりの少女時代であったり、ライオンに頭をかじられたことのある松島トモ子であったりしたのだ。
寅さんの見る冒頭の夢が「鞍馬天狗」であることからしても、やはり本作のメインはアラカンさんだったと思う。
それをサポートするのが執事の三木のり平で、この人のやるドタバタ劇がとんでもなく面白い。
喜劇役者の芸の神髄を見せられたような気がする。
殿様に斬りつけられ、「殿、人情でござる」と逃げ回る姿が可笑しく、「宮仕えも疲れる」とつぶやいて飄々と去っていくシーンなどは爆笑だ。
寅さんと殿様という浮世離れした二人がかもし出す御伽噺なのだが、それに超現実主義者の執事である三木のり平さんが絡む。
のり平さんが上手すぎるくらい上手いのだ。

アラカンさんは伊予大洲藩藤堂家の末裔なのだが、とにかく現実離れしている。
こんなに現実離れした登場人物は本作の殿様を置いて他にいなかったのではないか。
全くもってリアル感がないのだが、その芝居じみた態度、否、わざとらしい大芝居がアラカンさんの魅力を引き出していて、往年のアラカンさんを知る者にとっては嬉しくなってしまう。
アラカンさんは「甘露じゃの~っ」と言ってラムネを飲むし、刀を振りかざして大立ち回りを演ずる。
アラカンさんは手品師のような格好でとらやを訪ねてくるし、リヤカーでとらやにやってくる。
アラカンさんは「ムスメ!聞いておりますか!」とさくらを呼び捨て、鞠子さんと二人で涙をハラハラと流す。
絵になるのだ。
そして夕暮れの江戸川土手を鞠子さんと二人して歩いていくアラカンさんの後姿が何とも郷愁を呼ぶ。
すべてがこのシーンの為にあったような気がしてくるのである。

殿様は「一目お会いした時から、わたしにはよく分かりました。あなたがそばにいてくださって、克彦はどんなにしあわせ…」と泣き続けると、鞠子も「お父様、あたくしもね、...あたくしも幸せでしたよ」と涙を流す。
人情喜劇の見せ場だった。
その後でおばちゃんも交えて楽しげに語らう二人を見ていると、二人の間には確執なんてなかっただろうに・・・もっと早く会えばよかったのにと思ってしまう。
すっかり寅を気に入ってしまった殿様だが、大洲を再訪した寅さんは相変わらず執事の吉田に絡まれている。
渥美清、三木のり平の姿が最後まで笑わせる絶妙のコンビで、まさに名人芸を見る思いである。
そんなこんなで、やっぱし真野響子の印象が薄かったなあ~。
登場時間が少なかったこともあるけど・・・。