おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

おしゃれ泥棒

2022-03-22 08:06:49 | 映画
「おしゃれ泥棒」 1966年 アメリカ


監督 ウィリアム・ワイラー
出演 オードリー・ヘプバーン
   ピーター・オトゥール
   イーライ・ウォラック
   ヒュー・グリフィス
   シャルル・ボワイエ
   マルセル・ダリオ

ストーリー
シャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)は美術の愛好家であり収集家である。
また美術品を美術館に寄附する篤志家でもある。
さらに時々はコレクションの一部を競売に出すのだが、彼のいうところによると、それらの美術品は彼の父が買い集めた遺品だというが、誰もコレクションを見た人はいない。
実をいえば、ボネは偽作の天才なのだ。
ブローニュの森の近くにある彼の大邸宅内には、秘密のアトリエがあって、彼は自ら偽作をしているのだ。
彼には1人娘のニコル(オードリー・ヘップバーン)がいるが、彼女は父親の仕事を止めさせようと、いつも胸を痛めている。
パリ一の美術商ド・ソルネ(シャルル・ボワイエ)は、得意客のボネが、どうしてあんなにコレクションがあるのか、いつも不思議に思っていた。
もしかするとあの傑作はニセモノでは……というわけで、私立探偵シモン・デルモット(ピーター・オトゥール)に万事を頼んだ。
ところがヘマなシモンはニコルに見つかり、苦しまぎれに自分は泥棒だ、といったが、何故かニコルは彼を警察に引き渡さなかった。
ボネが所有している美術品中の逸品はチェリーニのビーナスだが、彼はそれを美術館に出品するという。
しかし、もし偽作だと分かったら大変と、ニコルはシモンに頼んでまんまと盗み出してしまった。
ここにリーランド(イーライ・ウォラック)というアメリカの美術収集家がいた。
彼はビーナス欲しさに政略結婚を考え、ニコルと婚約を結んだ。
そしてド・ソルネのあっせんでシモンと会見したが、シモンは3つの条件を出した。
第1は売価が100万ドル、第2はすぐに国外へ持ち出すこと、第3はニコルとの婚約を取り消すこと。
ビーナスさえ手に入ればと、リーランドはすぐにこの条件を承知。


寸評
ドタバタ喜劇のような作品で、これがオードリー・ヘップバーン主演でなかったら単なるB級作品である。
「おしゃれ泥棒」の企画にオードリーを抜擢したのではなく、オードリー・ヘップバーンがいて彼女の魅力を生かすために企画された作品だと推測する。
オードリーの魅力とはそのエレガンスさにある。
それを支えるのはジヴァンシーの衣装である。
オードリーとジヴァンシーの組み合わせは、ジヴァンシーが「麗しのサブリナ」の衣装を担当してからであるが、本作でも彼の衣装をまとったゴージャスなオードリーを見ることが出来る。
一番印象に残るのはピーター・オトゥールと待ち合わせをした時の黒のヴェールのようなマスクに全身黒ずくめのドレス姿のオードリーだ。
カルティエのイヤリングと片方だけ白の手袋というシンプルな組み合わせもいい。
僕はその姿を見てなぜか1961年の「ティファニーで朝食を」を思い起こしていた。

父親が美術館に貸し出した彫刻が贋作だと露見することを心配した娘が、その彫刻を美術館から盗み出すという話なのだが、本筋が盗み出すスリルにあるわけではないので、盗みのテクニックはおおらかなものだ。
オードリー・ヘップバーンとピーター・オトゥールが物置室に閉じ込められてしまうが、ピーター・オトゥールの用意した道具で抜け出すことが出来る。
事前にピーター・オトゥールが物置室の鍵の場所をメジャーで計測していたことが役に立ったのだが、よくよく考えてみるとピーター・オトゥールは閉じ込められてしまうことを予測していたことになる。
なんでそんなに都合よく小道具を持っているのだと突っ込みたくもなるが、ロマンチック・コメディなのだからそのような見方は野暮と言うものである。
この場面はオードリー・ヘップバーンとピーター・オトゥールのほんわかムードを単純に楽しめばいいのだろう。

本質がコメディなので登場人物は軽いキャラクターばかりである。
美術館の警備員たちは風采からして間抜けばかりで、ワインを隠し持って巡回中に盗み飲みをやる男もいる。
贋作であるチェリーニのビーナスに惚れこんで、盗品でも構わないから手に入れたいと願うアメリカの大富豪の男などは、とても大富豪という感じはしない。
警備員たちは何回も鳴る警報に右往左往し、真夜中の騒音で大臣が起こされたと警視総監から叱責を受ける。
業を煮やした警備員は警報が鳴らないようにスイッチを切ってしまうのだが、コメディとは言えここは大臣命令で渋る警備員に地位を使って切らせるぐらいの権力批判を見せても良かったのではないかと思う。
社会批判を思わせるエピソードは全く盛り込まれていない娯楽作となっている。

オード―リー・ヘップバーンは美術館のクリーニング会社の一員に変装し、ピーター・オトゥールは警官に変装して脱出しているのだが、二人はどのようにしてその変装を利用して美術館から退去したのかは不明である。
特にピーター・オトゥールがなぜ警官に変装する必要があったのかの理由がわからない。
突っつけばいくらでも出てくる作品だが、とにかくエレガンスなオード―リーの存在だけは動かしようがなく、このような役は彼女にピッタリなのだと思う。