おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2024-09-09 06:49:42 | 映画
「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」 2011年 イギリス


監督 フィリダ・ロイド
出演 メリル・ストリープ ジム・ブロードベント
   オリヴィア・コールマン ロジャー・アラム
   スーザン・ブラウン ニック・ダニング
   ハリー・ロイド アレクサンドラ・ローチ

ストーリー
舞台は英国、小さな食料品店で、ひとりの老婦人が買い物をしていた。
彼女は置いてあった新聞の「ホテルで爆発」という記事に目を奪われた。
彼女は買った牛乳の値段に驚きながら勘定を済ませ、帰宅すると、夫“デニス・サッチャー”といつものように朝食をとったのだが、そこにいたのは彼女ひとりだけだった。
彼女は年老い、認知症を患い、しばしば幻想を抱くようになっていたのだ。
孤独な晩年を送る86歳のマーガレット・サッチャー。
そんな彼女は、ふと自らの人生を振り返る。
第二次世界大戦の戦時下にあってもいつも通り店を開ける父を敬愛し、彼女は店の手伝いをしていた。
マーガレットは同世代の女性たちがオシャレをして遊ぶ中、勉学に勤しみオックスフォード大学に合格した。
マーガレットは市長も務めた父の影響で政治を志し、1950年、24歳のマーガレットは保守党から下院議員選挙に立候補したが落選してしまう。
失望する彼女に心優しい事業家デニス・サッチャーがプロポーズする。
「食器を洗って一生を終えるつもりはない」野心を隠さないマーガレットを、デニスは寛容に受け入れた。
サッチャーはデニスとの間に、マークとキャロルの双子に恵まれ、幸せな家庭を築いていた。
またその一方で、1959年、34歳になったサッチャーは、保守党から下院議員に初当選を果たした。
サッチャーは1970年、教育科学相となった。
男性議員の怒号とヤジを制し、サッチャーは英国の学校が閉鎖の危機にあるのは、労働組合のストが原因と主張した。
1974年、英国の状況を改善しようとヒース首相降ろしの動きが出てきた。
サッチャーは「保守党の党首選に立候補する」と台所で言い出した。


寸評
晩年のサッチヤーの視点からドラマを組み立てているのは面白い。
亡き夫の幻影を見て会話を交わすなどかなり老いぼれた感じになった彼女を中心に描いて、その彼女の回想という形で一代記を描いていくスタイルはドラマに奥行きを生み出している。
しかし、勝手にではあるが期待していたサッチャーの野望や野心に満ちた成りあがり物語としての描き方、あるいは「鉄の女」とよばれたその強靭ぶりは思いの他弱かった。
彼女の政治思想や政策、あるいは男性上位の政界の内幕、そして妻や母としての葛藤のドラマなどの様々な要素がバランスよく配置されているものの、切れ味鋭い演出は見られなかった。
僕は作り手の意図が前面に出たテーマ性の強い作品と想像していたのだが、以外とオーソドックスな伝記映画になっていたと思う。
その分、手堅くまとめられていたとは思うけれど・・・。

フォークランド紛争時の毅然とした態度にリーダーシップの真髄を見せられ、我が国の首相を思い浮かべた。
サッチャー首相とレーガン大統領がダンスしているニュース・シーンが挿入されていたが、レーガンもアルツハイマーになったと聞き及んでいるので、二人が計り知れないプレッシャーから解放された結果だろうかとも想像し、やりたいこともなくて成りたいだけでなったどこかの国の総理の能天気さが気になった。
サッチャーは幻覚症状が出ているが、頭はしっかりしていて認知症を検査する医師を諭す場面に心打たれる。
どう感じるかと聞かれて、「考えより気持ち?どう感じるかではなくて、何を考えるかでしょう」と語り、さらに父親の言葉として、「何を考えるか、それが言葉になり、言葉が行動になる。行動が習慣になり、習慣が人格を作り、そして人格が運命となる」と医者を諭すのだが、心に刺さる言葉だった。
サッチャーは国有企業の民営化と規制緩和・金融システム改革を掲げて、それらを強いリーダーシップで断行し、さらに改革の障害になっていた労働組合の影響力を削いだとされている。
その為に起きた労働組合の一つである炭鉱の組合争議を背景にした作品もあったように思う。
アメリカのレーガン大統領と日本の中曽根首相などのサミット国を中心に、西側諸国の首脳と共同歩調をとり、冷戦終結までのプロセスではソビエトのゴルバチョフ大統領と協力して冷戦の終結に大きな影響を与えた功績もあるが、一方で改革を進める中で起きた負の部分もあったはずだが、それらはニュース映像を挟むだけであまり深く描かれていない。

全体的にはメリル・ストリープによるメリル・ストリープのための映画という感じ。
首相時代のサッチャーも演じているが、僕は幻覚症状など認知症を発症させている晩年の彼女の演技に魅力を感じている。
英国首相マーガレット・サッチャーをニュース映像を通じて散々見てきたはずだが、今サッチャー首相を思い浮かべる時は当時のサッチャー首相の顔が思い浮かばず、メリル・ストリープのサッチャーが浮かんでしまう。
メリル・ストリープによって、歩行する姿など映像で普段の彼女の姿を見せつけられたせいだろう。
映像の力は強い。
彼女がオスカーの主演女優賞を取るのなら、影は薄いけれど夫役のジム・ブロードベントが助演男優賞をもらっても良かったかもしれなく、実話と同様にマーガレット・サッチャーをサポートしていた。


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