おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エリザベス:ゴールデン・エイジ

2022-03-08 09:38:43 | 映画
「エリザベス:ゴールデン・エイジ」 2007年 イギリス / フランス


監督 シェカール・カプール
出演 ケイト・ブランシェット
   ジェフリー・ラッシュ
   クライヴ・オーウェン
   リス・エヴァンス
   ジョルディ・モリャ
   アビー・コーニッシュ

ストーリー
1585年。イングランド国王の娘として生まれたエリザベス(ケイト・ブランシェット)は女王の座を手にしたものの、宮中では依然陰謀が渦巻き、外からは世界列強が虎視眈々と侵攻を狙っていた。
さらにスコットランドからは宿敵のメアリー女王(サマンサ・モートン)が逃亡してきて王位継承権を主張するなど、側近のウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)に守られながらも、心休まらない日々を送っていた。
そんな彼女の前にある日、新世界から帰還したばかりの航海士ウォルター・ローリー(クライヴ・オーウェン)が現われた。
次の探検の費用をエリザベスから引き出そうと考えた彼は、宮廷に入り込んで、新世界の可能性を熱心に語るが、それは国外へ出たことのないエリザベスにとって未知の世界だった。
やがてエリザベスは、知性と野性を兼ね備えたローリーに惹かれていく。
一方のローリーも、最初は資金目的の宮廷詣でだったが、だんだんエリザベスに特別な感情を抱くようになる。
しかし未婚のまま国家と添い遂げることを誓ったエリザベスにとって、これは禁じられた愛だった。
そこでエリザベスは、侍女のベス(アビー・コーニッシュ)を自分の代わりにローリーに近づけ、彼を宮廷に通わせる口実にする。
だがそのせいでローリーとベスは恋仲となり、やがて妊娠、結婚まで秘かに行っていた。
それを知り、孤独感に打ちのめされ理性を失ったエリザベスは、ベスを遠ざけ、ローリーを投獄してしまう。
そんな折、エリザベス暗殺を指示したかどによりメアリー女王が処刑されたことがきっかけで、スペインの無敵艦隊がイングランドに攻めてきた。
最初はイングランドの劣勢だったが、エリザベスは自ら兵士として戦場に赴き、イングランド軍を勝利に導くのだった。


寸評
本物の歴史建造物や華麗な衣装などで彩られた重厚な歴史劇の印象は前作同様だ。
ラブストーリー寄りの人間ドラマの色合いが濃いのも前作同様なのだが、前作以上にエリザベスが苦悩する姿が描かれている。
ローリーへの恋心、侍女ベスの美貌と若さへの嫉妬、メアリー女王への処罰に苦しむ姿など、エリザベス女王の女王としての姿と、一人の女性、一人の人間としての姿が描き分けられていく。
さらに政治ドラマとしての要素が加わって現代社会との共通項を探っているように見える。

エリザベスの側近ウォルシンガムが暗躍するが、彼はまるでCIA長官の様だ。
ウォルシンガムは弟も拷問にかけるし、エリザベスが寵愛する侍女ベスの従兄弟も処刑する。
エリザベスの忠臣ではあるが、その行動は非情で手段を選ばない。
敵側にスパイを送り込み情報を入手し、その情報による粛清は後を絶たない。
スペインのフェリペ2世はカトリック原理主義者である。
プロテスタントとカトリックの対立が背景にあるが、原理主義者はえてして暴走しがちである。
イングランドの自由を守ろうとするエリザベスと、カトリック原理主義によりイングランドを滅ぼそうとする姿は、まるで自由主義社会と、イスラム原理主義の戦いの様でもある。

政治的暗躍、宗教対立が硬派の物語なら、それに対するのがローリーをめぐり、エリザベスとベスが繰り広げる三角関係だ。
ローリーとエリザベスにはお互い特別な感情が湧いているが、ローリーはベスと関係を持ち子供が出来たことで秘密裏に結婚してしまう。
侍女の結婚は宮廷の許可を得なければならないしきたりだが、ベスはそれも無視してしまう。
一番寵愛するベスにローリーを取られて、裏切られた気分になるエリザベスの姿は権力を有している以外、もはやそこいらの女性と何ら変わらない。
エリザベスは中性的な人物で、この時はローリーに素直に愛されるベスのようでありたいと願う女性の一面だ。
男性的な一面はローリーのように新世界に飛び出したいと言う冒険心を持っていることであり、民と共に前線に立ち命を惜しまない振る舞いを見せることである。

政治問題に比べると恋愛問題は甘い。
甘さに慣れてきたところでスペインの無敵艦隊が攻めてくる。
CGスタッフの力量不足か、艦隊描写の緻密さと迫力は他作品と比較すると劣っているように思えた。
もっとスペクタクルとしての面白みは出せたはずだ。
兎に角イングランドはアルマダの海戦に勝利し、スペインの本土上陸を阻止する。
英国はその後1805年にもナポレオン戦争においてトラファルガーの海戦に勝利し、ナポレオン軍の本土上陸を阻止している。
トラファルガーにおいては名将ネルソン提督がいたが、アルマダの指揮官は誰だったのだろう。
まさかローリーではあるまい。