おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

2022-03-28 10:05:43 | 映画
「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」 1976年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 太地喜和子 下絛正巳
三崎千恵子 前田吟 太宰久雄 佐藤蛾次郎
中村はやと 桜井センリ 寺尾聰 佐野浅夫
大滝秀治 笠智衆 岡田嘉子 宇野重吉

ストーリー
春、4月。“とらや”を営むおいちゃん夫婦は、寅の妹さくらの一人息子・満男の新入学祝いで、大忙し。
そんな所へ、久し振りに寅が、旅から帰って来た。
ところが、おいちゃんたちと大喧嘩の末、家を飛び出してしまう。
その夜、寅は場末の酒場でウサンくさい老人と知り合い、意気投合して、とらやに連れて来た。
ところが翌朝、この老人はぜいたく三昧で、食事にも色々注文をつけて、おばちゃんを困らせる。
そこで寅は老人に注意すると、老人はすっかり旅館だと思っていたと言い、お世話になったお礼にと一枚の紙にサラサラと絵を描き、これを神田の大雅堂に持っていけば金になる、といって寅に渡した。
半信半疑の寅だったが、店の主人に恐る恐るその絵を渡すと、驚いた主人は7万円もの大金を寅に払うと言うので寅はびっくりしてしまい、とらやでは老人の正体を知って大騒ぎ。
この老人こそ、日本画壇の第一人者・池ノ内青観だったのだ……。
それから数日後、青観が生まれ故郷の兵庫県・竜野へ市の招待で来た時、偶然、寅と会った。
市の役人は、青観と親しく話す寅をすっかり青観の弟子と勘違いして、二人を料亭で大歓迎。
美人芸者のぼたんの心ゆく接待にすっかりご機嫌の寅。
翌日、用事があると言って出かけた青観の代理で、寅は市の観光課長の案内で、昼は市内見物、夜はぼたんを連れてキャバレーやバーの豪遊に、観光課長も大弱り。
その頃、青観は初恋の人を訪ねて帰らぬ遠い青春時代の感傷にひたっていた。
やがて、寅はぼたんに別れを告げ、竜野を発った。
夏が来て、とらやにぼたんが寅を訪ねて来ると、やがていつもの騒動がもちあがる・・・。


寸評
1976年の日本映画は不作の年で、あまりいい映画が作られなかった。
キネマ旬報のベストテンで2位に選ばれているが、1位が長谷川和彦の「青春の殺人者」で、3位が増村保造の「大地の子守歌」、以下山本薩夫の「不毛地帯」、市川崑の「犬神家の一族」と続いた。
内容的にベストテンの2位になるような作品ではないが、それでも「男はつらいよ」シリーズの水準の高さを感じさせる作品となっている。

今回の舞台は兵庫県の竜野で三木露風の童謡「あかとんぼ」で有名な町である。
僕は学生時代に友人とこの竜野を訪れ、国民宿舎の「あかとんぼ荘」に宿泊した。
何もない土地で、それがかえって風情を醸し出していたのだが、浴場で一緒になったおじさんたちから「あんたら若い者がこんなところに来ても麻雀ぐらいしかすることがないで」とからかわれたのだが、何のことはない僕たちは麻雀に没頭するためにそこを訪れていたのである。
今は改装もなったのか随分と小奇麗な国民宿舎に生まれ変わっているようだ。

作品中で竜野は池ノ内青観の故郷となっていて、彼は若い頃に思いを寄せた女性を訪ねている。
彼女は「人生は後悔の積み重ねで、ああすればよかったという後悔、あんなことをしなければよかったという後悔だ」と話すが、初恋の相手に関しては後悔ばかりが先立つものである。
なぜこの話が挿入されたのか判然としないが、行き過ぎるタクシーの窓越しに挨拶をかわす老人たちの姿にある種のあこがれを感じた。

今回のマドンナは太地喜和子の芸者ぼたんであるが、シリーズ中で多く描かれた寅がマドンナに入れあげて片思いの騒動を起こしていない。
むしろ寅の片思い騒動は非常に抑えたものとなっている。
みすぼらしい恰好の池ノ内青観に親切にしてやると、青観は金に換えるための絵を書いてやるのだが、タコ社長が言うように自分たちが汗水たらして得ることを思うと随分と楽なように見える。
それも池ノ内青観という名前があるからで、竜野においてもその名前で歓待を受けている。
竜野の観光課では殿様の末裔が足軽の末裔の課長の部下となっていたりと、権威主義に対する皮肉がチクリと描かれている。
そんな権威とは無関係な世界にいるのが寅とぼたんである。
あっけらかんとしたぼたんの太地喜和子は生き生きしていて華やいでいる。
「寅さんには好いた人がおるんやろね、その人に私がよろしゅう言うてたと伝えといてください」と言ってとらやを去るぼたんは粋な女性を感じさせ、女性から寅への愛情表現としてもなかなか粋なセリフであった。

随分と堅気の女性に恋をしてきた寅さんであるが、彼の生活態度からかどうも玄人筋、水商売の女性の方がピッタリとくるようだ。
シリーズ中では浅丘ルリ子のリリーと、太地喜和子のぼたんが双璧だったように思う。
太地喜和子は再登場することなく早世してしまった。