おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

鴛鴦歌合戦

2022-03-21 08:31:32 | 映画
「鴛鴦歌合戦」 1939年 日本


監督 マキノ正博
出演 片岡千恵蔵 市川春代 志村喬 遠山満
   深水藤子 ディック・ミネ 香川良介
   服部富子 尾上華丈 石川秀道 楠栄三郎
   近松竜太郎 福井松之助 富士咲実

ストーリー
浅井禮三郎(片岡千恵蔵)は城勤めを嫌い、長屋で気楽な浪人生活を送っている。
隣人の志村狂斎(志村喬)は骨董品狂いで骨董品購入の為に散財を繰り返している。
娘のお春(市川春代)は、そのお金を「米代に」と言っているが中々聞き入れてもらえず喧嘩が絶えない。
禮三郎はそのお春といい感じなのに、素直に仲良くできない。
豪商香川屋惣七(香川良介)の娘お富(服部富子)は美人で町の若旦那の間の人気者だった。
しかし、お富は禮三郎に一目ぼれしてしまい猛アタックを開始する。
禮三郎を張り合うお春とお富の前に、更なる強敵、禮三郎の叔父の遠藤満右ェ門(遠山満)の娘・藤尾(深水藤子)が現れる。
彼女は禮三郎の許嫁で満右ェ門は婚礼を迫ってくる。
ある日、例によって狂斎が骨董品屋で古物を吟味していると、これまた骨董品狂いの殿様・峯澤丹波守(ディック・ミネ)が店に入ってきた。
狂斎は1点の掛け軸に目を付けたが、金が無い。
すると殿様がそれを買ってくれると言うではないか。
大喜びの狂斎を迎えに来たお春を一目見た殿様は、彼女に一目惚れ、お側仕えになれと言ってくる。
禮三郎との結婚を夢見るお春は、断固拒否。
三人の女性からの求愛を受けて、禮三郎は果たしてどんな決断を下すのか…。


寸評
何ともたわいのないオペレッタではあるが、1939年という製作年度を思うと実によくできた楽しい作品だ。
ミュージカルというジャンルに入る作品ではないので強烈なダンスナンバーがあるわけではないが、日本映画らしいほのぼのとした歌声が最初から最後まで流れてくる。
歌手が本職という人も出演しているが、役者連中も楽しい歌声を聴かせてくれる。
特に志村喬がなかなか渋いノドを披露していて、彼の歌声としては黒澤の「生きる」が鮮明に残っているのだが、このような軽快な歌声は意外や意外といったふうで驚かされる。
モテ男を一手に引き受けている片岡千恵蔵の歌声も一節あるが、これもなかなかの聴きものである。

オペレッタは「軽歌劇」などと訳されるようにオペラから派生したもので、貴族の楽しみだったオペラを庶民にも楽しめるようなコメディ形式にしたのがオペレッタで、セリフの大半が歌唱という点はほぼオペラと同じだが、オペラの多くが悲劇を扱うのに対し、オペレッタは軽妙な筋と歌による娯楽的な作品が多いと言われている。
ミュージカルは、歌と踊りが主体の歌劇で、形式的にはオペレッタに似ているが、一般的にはポピュラー音楽を使い、日常的・庶民的な題材が多く、オペレッタがアメリカに渡り発展したのがミュージカルということになる。
そんな区分けを考えても、まさしくこの作品はオペレッタで、当時としては斬新な作品だったのではないだろうか。
どうしても歴史的な価値を感じながら見てしまうので、内容以上に楽しめる作品だ。

話自体は単純そのもので、一人のモテ男に三人の娘が恋をしていて、それぞれが恋の鞘当を行うというもの。
それに本命の父親が骨董狂いということが付け加わり、そのからみで同じく骨董狂いの殿様が登場して本命の娘を我がものにしようとする話が付随するだけのもので、内容は深くはない。
それでも冒頭から、お富と町衆の掛け合いや、恋敵のお春とお富によるコーラスの掛け合いなどで、当時の映画の世界に誘われてしまう。
ディック・ミネはジャズシンガーらしく軽快にスウィングしながら登場し、本職の歌声を披露して軽薄な殿様を演じていて楽しい。
映画が始まってすぐに繰り広げられるこれらのシーンによって「鴛鴦歌合戦」という作品が、どのような映画であるのかが理解できる。
構成の僕たちが見る分には、随分と的を得た演出だったと思う。

戦後生まれの僕たちが、戦前の作品を目にして批評めいたことを言うのはどうも的外れなような気がする。
そもそもフィルムが残っているだけでも奇跡的と思えるし、当時の技術なり映画事情などは全く知らないわけで、ただただ興味本位だけで見てもそれなりの価値はあると思う。
ましてや作風がこのようなものであると物珍しさが覆いかぶさってきて、作品の出来以上に価値を見出してしまう。
志村喬と市川春代の親子がは貼りをして生計を立てているのだが、その傘がモノクロ画面ながらも色とりどりで重要な小道具になっていて、画面の雰囲気を華やかにしていた。
ラストシーンはまるで宝塚のレビューみたいだった。
邦画でミュージカル映画と呼べる作品は少ないが、そのジャンルで映画史の中から選出すれば、てもおそらく選抜されるであろう作品だと思う。