おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 私の寅さん

2022-03-27 09:33:25 | 映画
「男はつらいよ 私の寅さん」 1973年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 岸恵子 前田武彦 倍賞千恵子
   松村達雄 三崎千恵子 前田吟 中村はやと
   太宰久雄 佐藤蛾次郎 笠智衆 津川雅彦

ストーリー
テキヤ稼業のフーテンの寅の故郷、東京は葛飾・柴又。
寅の妹・さくらと夫の博は、おいちゃん夫婦への感謝をこめて九州旅行へ招待することになった。
準備万端整えて、明日は全員揃って観光旅行へ出発する、というその日、寅がフラリと帰ってきた。
驚いた皆は、寅に旅行のことを隠そうとしたが、つまらぬことからパレて、寅は大いにムクれてしまった。
ふくれっ面の寅に、さくらは真情を込めて、おいちゃん夫婦への感謝の旅行だと説明すると、やっと寅は了解し、今度は留守番を買ってでた。
数日後、寅はふとしたことから、小学校時代の級友で、今は放送作家をしている柳文彦に会った。
何十年ぶりかの再会で話は大いにはずみ、調子にのった寅は、文彦に連れていかれた妹・りつ子の家で、彼女のキャンパスにいたずら描きをしてしまった。
寅にしてみれば軽い気持でやったのだが、画家を職業としているりつ子にとっては言語道断、二人は会うなり大喧嘩をしてしまう。
翌朝、おいちゃん達へ、りつ子の悪口を言っているところに、当人が喧嘩の詫びを言いに現われた。
寅はその日以来、貧乏画家のパトロンを気取り、次第に彼女に惹かれていった。
ある日、りつ子が病気で寝こんだと聞いた寅は早速見舞いに出かけた。
りつ子は寅に、失恋の痛手から寝こんでしまった、と笑いかけた。
寅はそんなりつ子を懸命の努力でなぐさめ、とらやに帰るやいなや、恋の病いが伝染したかのように、そのまま床についてしまった。
数日後、とらやを訪ねたりつ子は、寅が自分に想いを寄せていることを感じて複雑な気持ちになる。
しかし、寅は寅なりに、自分の恋心が、とらや一家のみならず、次第にりつ子や文彦に知れわたってしまったことを恥じ、旅に出る決意を固めてりつ子の許を訪ねた。


寸評
さくらを初め、おいちゃん達一家が出かけようとするところに寅が帰って来て気まずくなるというのは時々描かれる導入部のパターンである。
おいちゃん夫婦にずっと世話になってきたことへの感謝の気落ちもあって、さくら夫婦が九州旅行をプレゼントしたのだが、明日出発するという日に寅が帰って来て騒動が起きる。
行先は色々あるが、スネた寅が言う文句の口上は毎回同じである。
シリーズのファンならば、「あーあ、またやってるわ」的なやり取りである。
ひと悶着があって、寅さんを留守番にして一家は旅立つことが出来たが、一人淋しい生活を送る寅さんは、さくらが掛けてくる旅先からの電話を心待ちにしている。
その子供じみたやり取りが面白い。

やがて3泊4日の旅を終えた一家が帰ってくるが、寅さんは行き届いた心配りで彼等を迎える。
あっさりした食べ物をと、鮭の塩焼きやお漬物を準備し、旅の疲れを取るためにお風呂も沸かしておいてやる。
このような手配をさせると才能を見せる寅さんなのである。
そのことを感謝されると照れてしまうシャイな寅さんでもある。
照れる寅さんの態度が笑わせる。

家族の有難さを知り、すっかりおとなしくなった寅さんを「なんだか兄さんみたいじゃない」と博がさくらに言ったのを皮切りに、寅さんの片思い騒動が始まる。
今回のマドンナは小学校で級友だった前田武彦の妹である岸恵子である。
彼女の演じるりつ子は画家としての生活に浸りきっていて婚期を逃している。
どうやら好きな男もいたようなのだが、その男も金持ちの女性と結婚してしまった。
当然のように寅さんはりつ子に恋するのだが、新しい切り口として今回ははっきりとりつ子から拒否されている。
寅さんを見舞いに来て、寅さんの気持ちを知ったりつ子は急いでその場を立ち去る。
雰囲気が悪くなったしまった寅は後日りつ子を訪ねるが、りつ子は「寅さんの気持ちは分かっているのだけれど、画家として自由に生きたい。寅さんとはずっと友達でいたい」とハッキリ告げるのである。
これほど気持ちをはっきりと伝えるキャラクターとして、岸恵子をキャスティングしたのは的を得ている。
もしかすると岸恵子のキャスティングで、このような展開にしたのかもしれない。
岸恵子にうじうじする女性は似合わないだろう。

思いを寄せる女性に気持ちを伝えたばかりに関係が崩れ、それっきりとなってしまうことも確かにあるだろう。
しかし、いつまでもいい関係を続けたいがために、友達を装い思いを告げられなかったという恋もある。
あの時、あんなことを言わねばよかったという後悔もあり、あの時はっきりと言えばよかったという後悔もある。
人生は後悔の連続である。
寅さんは後悔しているのか、していないのか、今日も威勢のいいタンカ売を行っていて、小気味よい口上がスクリーン一杯に響き渡る。
僕たちは元気な寅さんを見ることで、安心して映画館を出ることが出来るのである。