おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 噂の寅次郎

2022-03-31 08:03:06 | 映画
「男はつらいよ 噂の寅次郎」 1978年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 大原麗子 泉ピン子
   下絛正巳 三崎千恵子 太宰久雄 中村はやと
   佐藤蛾次郎 前田吟 室田日出男 笠智衆 志村喬

ストーリー
旅先で偶然、博の父、風票一郎と出会った寅は、そこで、風票一郎に人生のはかなさについて諭され、「今昔物語」の本を借りて、柴叉に帰った。
その頃、“とらや”では、職業安定所の紹介で、荒川早苗が店を手伝っていた。
寅は帰るや否や、家族を集めて、風票一郎の受売りを一席ブツのだった。
翌朝、修業の旅に出ると家を出ようとするところに、早苗が出勤して来た。
彼女の美しさにギョッとする寅だが、旅に出ると言った手前、やむなく、店を出た。
通りを歩いていると、さくらに出会った寅は急に腹痛を訴えるのだった。
救急車で病院に担ぎ込まれた寅だが、たいしたこともなく、家に帰った。
早苗が現在、夫と別居中であることを聞いて、寅はウキウキしながらも、彼女を励まし、力づけた。
彼女も寅の優しい心づかいに、思わず涙ぐみ、“寅さん、好きよ”とまで言うので、“とらや”一家やタコ社長の心配はつのる一方であった。
ある日、早苗は義兄の添田に夫の離婚届を渡されたが、高校教師の添田は密かに彼女を慕っていた。
暫くして、早苗の引っ越しの日、手伝いに出かけた寅は、そこで生徒を連れてキビキビと働く添田を紹介された。
やがて、そんな添田が、“とらや”に早苗を訪ねてきた。
添田は外出している早苗を暫く待っていたが、意を決するように立ち上がると、手紙と預金通帳を、早苗に渡すように、寅に託して立ち去るのだった。
添田が出て行くと、入れちがいに早苗が戻って来た。
その手紙は、「僕は学校を辞めて、故郷の小樽に帰るが、早苗は、頑張って生きて欲しい」という内容で、預金通帳には、百万円の数字が一行目に記入されていた・・・。


寸評
めっきり体が弱ってきたおいちゃん夫婦は、人件費と利益がトントンでも体が楽になるだけましだと博に諭されて店員を置くことにしたのだが、やってきたのは滅法色っぽい大原麗子演じる荒川早苗。
タコ社長も色っぽいねを連発する。
今回の作品を大雑把に言うと、職安を通じてとらやにやって来た色っぽい女性に寅さんが巻き起こす大騒動ということになるのだが、単なる女性ではなく色っぽい女性というのがミソとなっている。
その点からすると大原麗子の艶めかしい特徴ある声と仕草が、色っぽい女を前面に出して作品にぴったりだ。

僕たちは早苗と出会って寅が一目ぼれしてしまうことは先刻ご承知なのだが、とらやの面々は寅さんが早苗と出会うといつもの病気が出て大変なことになるとヤキモキする姿が可笑しい。
寅さんは早苗が結婚していると聞いてはガッカリし、離婚しようとしていると聞いては張り切りだす。
寅さんが何かと早苗に親切にすると、早苗は寅さんに「わたし、寅さん好きよ」と言ってしまう。
早苗の「好きよ」はLoveではなく、Likeの意味合いで、「親切にしてくれる寅さんが気に入ったわ」程度なのだ。
それで舞い上がってしまう寅さんの様子は毎度のことなのだが、いつもながら面白い。
寅さんが勘違いしてしまうことが分かっているとらやの面々は「どうして早苗さんは、あんなこと言っちゃうんだろうね…」と先行きを不安視する。
そこからの騒動はシリーズの名物なのだから、観客も慣れたものでその可笑しさに浸っていく。

前段として、旅先で博の父親と出会った寅が、そこで今昔物語の話を聞かされる。
絶世の美人に恋した男が、願いがかなってその女性と結婚する。
幸せな生活が続いたが、妻となった女性はすぐに死んでしまう。
妻が忘れられない男は墓を掘り返し、棺を開けるとそこには美人の妻とは思えぬ醜い屍があった。
死んでしまうと美人と言えども皆と同じように醜いドクロとなってしまうという人生のはかなさを悟り、男は出家したという話である。
この今昔物語の受け売りを、面白おかしく言って聞かせた寅さんが、たちまちにしてそれはどこへやらで、美人に恋してしまう男のどうしようもない性を喜劇的に描いていたのだと思う。

早苗は小樽へ帰り、添田と幸せに暮らしているのだろうが、その姿は描かれず、僕たちの想像に任されている。
ハガキの内容からもそれはうかがえないが、おそらく一緒になったのだろう。
もう一人の女性として泉ピン子が登場するが、彼女の位置づけとエピソードの意味合いがよくわからない。
彼女の登場は、早苗に「寅さんてモテるのね・・・」と言わせるためか、それともエンディングの締めに必要な役回りを負わせるためだったのだろうか?
この頃になるとマンネリの面白さというものが板についてきた感がある。
繰り返されてきたドタバタ劇を安心してみていられるし、顔をそむけたくなるようなどぎついシーンなどは排除しているから、誰でも楽しめる作品として昇華を果たしている。
マンネリの中にどのような変化を持ち込むかが大きな命題となりつつあり、今回は博の父親としての志村喬が再登場することがその役目を担っていた。