ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

詰込みの方が学力は上がる?

2022-08-16 08:00:38 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「考えられるのは」8月10日
 『学力テストと格差 教師のスキル底上げ急務』というタイトルの社説が掲載されました。その中に気になる記述がありました。『学校や児童生徒を対象に実施したアンケートの結果から、教育現場の課題が浮き彫りになっている。「理科では、自分の予想や仮説をもとに、観察や実験の計画を立てられるよう指導している」と答えた学校で、正答率が高いとは必ずしも言えなかった。実際には、新指導要領に対応した授業ができていないケースが少なくないということだ』という記述です。
 違和感を覚えたのは私だけでしょうか。社説を書いた方の論理構成は、学習指導要領に対応した授業をしていれば正答率は高いはず→正答率は高くなかった→学習指導要領に対応した授業ができていなかった、というものです。
 もし、この推論が正しいとするならば、推論と異なる結果が出た原因は、アンケートの仕方に問題があることになります。学校も子供も意図的かどうかは別にして嘘を回答したことになります。嘘の回答ができないような設問等の改善が必要になるはずですが、そうした記述はありませんでした。
 また、嘘をついたのではなく、回答者の主観としては、学習指導要領に対応した授業をしているつもりだが、実際にはそうなっていなかったという可能性を疑のであれば、いくつかの学校を任意に抽出し、実際に調査員を派遣して授業の実態を把握して確認するという作業が必要になるはずです。
 さらに、別の解釈を放棄していることも気になります。それは、学習テストの問題が、学習指導要領に対応した授業をすると正答率が高くなるような内容ではなく、むしろ他の授業法、例えば知識注入型の授業、テスト解答テクニックをたたき込むような授業の方が正答率が高くなるようなものだったという可能性です。
 上記の二つは、アンケートかテスト問題に瑕疵があるのかもしれないと疑ってみるという立場です。これらは、技術的な改善の問題であり、専門家がきちんと正対して取り組めば、解決は難しくないはずです。
 深刻なのは、第三の場合です。それは、そもそも新しい学習指導要領が想定し、推奨している授業の形、即ち「自分の予想や仮説をもとに、観察や実験の計画を立てられるような授業」が、望ましいと考えている理科の学力の定着・向上に寄与しないという場合です。
 例えば、多くの子供が塾等で実験方法も結果も知っているにもかかわらず、予想や仮説を立てさせられることを無駄と感じ、意欲をなくしているというようなことです。あるいは、立てられた予想や仮説についての吟味が疎かで、単なる思い付きのような科学的指向の乏しい予想や仮説でも受け入れられ、深く考えることもなく当てずっぽうの発言をそのままにして授業が進むという形骸化が進行しているのかもしれません。
 私も指導主事時代に、専門とする社会科の授業において、仮説や予想を学習過程に中に位置づけることの必要性を折に触れ説いてきましたが、その趣旨を十分に理解しないまま、形だけ真似しようとする教員が少なくありませんでした。
  いずれにしろ、学力テストの結果についての分析は、もっと丁寧に、必要に応じて抽出校を訪問しての聞き取り、授業参観等によって精度を高めていくべきです。

 

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