「重荷」3月23日
『中学教科書にQR増加 文科省検定 進むデジタル対応』という見出しの記事が掲載されました。『国の「GIGAスクール構想」で、生徒1人1台のデジタル端末の配備が進んだことから、教科書からオンライン上の教材にアクセスできる二次元コードを載せた個所数が増えた』ことが文科省の教科書検定結果から明らかになったことを報じる記事です。
記事によると、『デジタルコンテンツは教科書の外に置かれているために検定の対象外だが、教科書各社はその充実を図ることで、各学校が使う教科書として選んでもらいたい考えだ』とのことです。当然の発想でしょう。今後、こうした傾向はさらに進んでいくことが予想されます。
私がこの記事を目にして真っ先に頭に浮かんだのは、教委は大変だな、ということでした。小中の教科書は、その設置者である区市町村の教委が、採択権をもちます。通常、5名の教育委員が、公開された教育委員会の場で全ての教科につき、数社、教科によっては7~8社の教科書の中から、最も適していると思われる1社を選定します。
もちろん、いきなり委員の前に教科書が積み上げられて「さあ選べ」となるわけではありません。当該教委が管轄する学校の校長や教員からなる採択資料作成委員会のようなものが組織され、そこで参考となる資料が作られますが、決定するのはあくまでも教育委員の合議によってです。
教育委員は、医師や弁護士、PTA会長など、「素人」がほとんどを占めます。その彼らが、多くの市民、それも教科書採択問題に強い関心をもち、様々な運動を繰り広げている活動家の人たちが注視する中で、きちんと意見を述べ決定していくのです。
私も指導主事や室長として関わったことがありますが、ほぼ全員の教育委員が、「こんなに大変なものだとは思わなかった」と疲れ切った顔を見せたものでした。また、採択結果については、市民だけではなく、区市町村議会の議員も強い関心を寄せています。国旗国歌の扱い、同性婚や選択制夫婦別姓問題の扱い、自衛隊や日米安保の扱い、LGBTQについての記述、性教育における性交や避妊の取り上げ方等々。
いわゆる保守派とリベラル派が、目を光らせて、自分たちの主張の反する見解についての発言を取り上げ、議会でも追及攻撃するのです。こうした状況下、今まででも教委は胃が痛くなるような思いで採択事務を行ってきたのです。それなのに今後は、QRコードの内容についてまで、市民や議会の目を意識しなければならなくなるのです。
もちろん、記事にあるように、QRコードは検定の対象外ですから、採択にあたってもその内容は検討項目には含まないという考え方をすることは可能ですが、市民や議員から、「A社の教科書のQRコードの内容に、コンドームの装着方についての解説が図入りである。そのことを知っていてA社の教科書を選んだのか」というような質問がなされ、知らなかった、検討材料ではないという答弁では済まされない自体が想定されるのです。
かといって、全ての社の全てのQRコードの内容をチェックするということは、膨大な作業になります。小さな教委ではとても不可能です。どう対応していくのか、各教委の見識と能力が問われます。