「知らせるということ」2月19日
心療内科医海原純子氏が、『疲労でなくフローへ』という表題でコラムを書かれていました。その中で海原氏は、同僚の教育学部教授の効果的トレーニングについての話を紹介なさっています。『輪投げをして、何の練習もしないで10回投げて10回入るとやる気がなくなってしまう。逆に、練習しても10回投げて全く入らないと、これもやる気がなくなってしまう。一番効果的なのは、何も練習しないと5回しか入らない。でも、練習すると7~8回入るようになる、というレベルを設定すること。これがいわゆるフロー状態で練習できるコツです』というものです。
ちなみに、表題にもなっている『フロー状態』とは、『時間感覚を忘れ高い集中力をもって活動できる状態』のことです。海原氏の同僚の教授が言っていることは、教育に携わる者の間では「常識」となっていることです。難しすぎたり大変すぎたりする目標を示すと子供は学習意欲を減退させ、簡単すぎたり楽すぎる目標も不適切ということは、心理学の理論を学ばなくても、ある程度経験を積んだ教員であれば、自然と体得しているものだからです。
こうした「常識」は、授業設計にも生かされており、その前提として子供の実態把握の必要性が強調されているのです。研究授業などの学習指導案に、「児童の実態」というような項目が設けられているのは、そうした理由があるのです。
さらに、学習指導案の「指導上の留意点」等の欄に書かれていることは、子供が躓きやすく、自力での目標到達が難しいと予想される場面で、教員がどのように助言するか、どのような学習活動を設定するか、どのような内容の資料に目を向けさせるかといった事項であり、一度低下しかかった子供の学習意欲を、再び戻す、上記の言い方をすれば、困難すぎる課題に直面しやる気をなくしつつある子供をフロー状態に戻すための配慮点なのです。
ここまでは、経験の乏しい教員であっても、良く理解されていると思います。しかし、これだけでは足りないのです。海原氏の同僚教授が示した輪投げの例を思い出してください。輪投げは、入った回数という形で、本人が結果を確認することができます。つまり自己評価が可能なのです。一方、通常の授業の中では、子供は自分の現在位置を知ることができません。着実にゴールに迫っているのか、まだ道半ばなのか八合目まで来ているのか、この道は頂上につながっている道なのか、脇道に逸れ迷路にはまりこんでいるのか、五里霧中状態なのです。これでは、学習意欲は湧いてきません。
そこで重要になるのが、教員による評価なのです。教員が、一人一人の子供に対して、現在位置を示し、これから進む方向を確認してやることが必要になるのです。これこそが教員の存在意義であり、専門的な技量が求められる部分でもあるのです。事前に準備しておくという側面よりも、その場で一人一人に応じて臨機応変に対応するという側面の方が強く、先輩教員のアドバイスを受けることもできなければ、時間をかけてデータ分析をしているヒマもありません。全て自分一人で即決して行動に移していかなければならないのです。
私が、全ての授業に「評価」は不可欠、評価力こそ教員力と言ってきたのは、そういう意味なのです。そして、評価とは成績をつけたりランク付けしたりすることではなく、子供に伝えるという行為を伴ってこそ完結するということも、この例でお分かりいただけると思います。