「どちらを選ぶ?」12月24日
『1型糖尿病で入園拒否』という見出しの記事が掲載されました。記事によると、『「1型糖尿病」を発症した子供が、幼稚園や保育園への入園を断られたり、難色を示されたりするケースがある』ということです。その理由としては、『「これまで受け入れた経験がない」「何かあったときに対応ができない」などだった』とされています。
記事は淡々と事実を伝えるだけで、園側の対応を責める記述もありませんし、行政や政治への注文もありません。入園拒否は、病気による人権侵害ととらえることも可能ですから、こうした事実のみを伝える形はむしろ異例だと言えます。
今回の記事は、幼稚園や保育園ですので、入園拒否が起きますが、義務教育である小中学校では、入園拒否は不可能です。ではもしも可能だとしたらどうなるでしょうか。自分が校長だとしたら、どのような判断を下すでしょうか、と考えてみました。
綺麗事ではなく、私だったら入学を受け入れます。もちろん、保護者に対して、規定の時間になったら学校にきてインスリンの注入を行うこと、主治医に緊急対応の約束を取り付けることなどのお願いはしますが。それは、教委勤務時代に長年人権尊重教育を担当してきた者としての義務だと思うからです。
しかし、そんな私でも躊躇する状況があり得ます。それは、学校選択制です。保護者が全く自由に学校を選択できるという制度下で、なおかつ選択された数によって、学校が評価され、教員が評価され、予算や統廃合の面で不利な条件を押しつけられるとしたら、大いに迷うと思います。
保護者の本音として、あの学校には1型糖尿病の子供が何人もいて、先生方もその子供たちにいろいろと気を遣って他の子供への配慮が疎かになっているらしい、という危惧をもつ方がいるはずだからです。さらに、あの校長が1型糖尿病の子供を積極的に受け入れる方針なので、遠くの学区からもそういう子供が集まってきて、来年の1年生ではもっと増えるらしい、というような憶測が流れ、児童数が減ってしまえば、他の子供にも悪影響が及ぶことになってしまいます。いくら、病気について説明し、学校の体制について理解を求め、子供への悪い影響はないことを説いても、こうした思いこみはなかなかなくならないものです。
つまり、学校選択制や保護者による学校評価には、こうした世論の暴力とでも言うべき側面があるのです。それは、問題行動歴のある子供や障害のある子供、不登校や学習遅進児など、本来より手厚い教育的配慮が必要な子供を排除する方向で機能してしまう可能性があるのです。
実際、地域でも有名な「問題児」とそのモンスターペアレンツがA中学校に進学するらしいという噂だけで、A中学校の入学希望者が激減してしまったという例があるのです。こうした負の側面について、きちんとした研究と分析が行われているかと言えば、不十分であるというしかありません。学校選択制の定着に当たっては、絶対に乗り越えなければならないハードルなのですが。