中学2年のとき、学級だけの野球チームを作った。25人の男生徒中10余人が参加した。野球部員は午後の練習があるから除外され、つまりは、ヘボチームであるが、戦う相手も同レベルだ。 監督にはA君を選んだが、これは私の提案だった。A君は小柄であり非力であり、戦力にはなり得なかったが、野球には熱心で、『ベースボールマガジン』を愛読し、ヒイキである巨人の新聞記事を切り抜いたノートを作っていたり、もちろんルール(たとえば私にはよくわからないボークのことなど)にも詳しかった。 私の狙いは、A君が穏やかで優しい性格であることにあった。監督だから守備位置も打順も決めるわけで、そのとき必ず誰かは不服(不満)を思うわけだが、その誰かもA君に向かって、「なんで俺が8番なんだよ!」と文句は言えなかった。 前述のようにA君は細かい作業が得意だから、ヘボ野球とはいえ、スコアブックをつけているから、「おまえ、悪いけど、この5試合、28打数でヒットは5本なんだよなぁ」となって恥をかくだけだ。 そして最も大きいのが、穏やかで優しい彼の性格だった。そういうA君に怒ったりすれば、仲間から、あいつはAがおとなしいのにつけこんで威張るようなイヤなヤツだとみられるのがわかるからだ。 結局はAの監督業は大成功だった。 小・中学校での弱い者イジメが毎日のように報道されているが、そういうものを見聞きするとき、私はふとA君のことを思い出す。みんなが、弱者だった彼を中心にして野球を楽しんだ昔を思い出す。誰とケンカしても負けるであろうA君は、やがて大学の空手部に入って強者になったそうだ。
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