「ゆうべ一人で新橋へ行って、鮨屋で呑んだらさぁ、5千円とられちゃったよ」とAが言い、誰かが「バカだなぁ、おまえ。5千円あれば、いい靴が買えたじゃねぇか」と冷やかし、みんながそれに同調した。これは昭和40年前後の話であり、Aもみんなも30歳そこそこで、サラリーは7,8万程度だった。 誰かの冷やかしは、Aがいつも古ぼけた、埃っぽい靴を履いているからだった。誰が考えても、彼は新橋の鮨ではなく、川崎の焼き鳥屋で呑んで、靴を新調するのが正着だと思われたし、言い方を変えれば、Aはおバカさんだった。 しかし、彼は不思議に女性に人気があった。 ある性格の女性は、Aを素敵なおバカさんと見るのであって、その辺のことは、遠藤周作氏のユーモア小説『おバカさん』を読んでいただきたい。 「人間は決して賢くはない。なぜなら、矛盾だらけの生き物だからだ」とは、佐藤愛子さんの言葉だったと思うが(違うかな?)、たしかに、賢い人は理知が勝るから矛盾は避けるだろう。 私は言うまでもなく、おバカさんであって、むろん矛盾の多い人生だ。 アレコレ並べても仕方がないので1ツだけ言うと、私は毎日酒を呑み、そして毎日、胃と肝臓の薬をのんでいる。 これは毎日300グラムのトンカツを食べて、毎日ヤセ薬をのむのと同じココロ(矛盾)であるだろう。 おバカさんも、時には(私の大病のように)罰を受けるが、それでも、「わかっちゃいるけどやめられない」ものがあるのも、ひばりさんの歌を借りれば「それもまた人生」か。
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