家人がシメ鯖に中毒(あた)ったのは、まだ30歳代のときだった。胃痛腹痛は半日でおさまったが、顔や首筋にデキモノが残ったりした。以後、家人はシメ鯖だけでなく、サバは干物ですら遠ざけていた。 それが普通の人間であって、つまり、不安、恐怖、警戒といったものは経験から来ることが大半だろう。 私は自分が高所恐怖症であることを知ったのは25歳を過ぎてからだが、子供の頃はそんなことはなかった。自宅の屋根に登って、近所の仲間達を誘い、みんなが尻込みするのを見て、お山の大将を気取っていた。 そして、私には屋根や階段や樹から落ちるといった経験は全くない。 そのことで、不安・恐怖にも、いろいろとあることがわかる。 19年前に脳梗塞を患った。朝、起き上がろうとして右脚に力が入らず、何がなんだかわからない不安に襲われた、幸いにして軽症で済んで、半月後に退院許可が出たが、退院前日の担当医の説明を聞いているうちに、また不安が募った。「今後外出するときは、必ず同伴者と一緒に~」と言うのである。 これ、誰だって「そんなにヤバいのか?」と思うはずだ。たぶん、私の顔には大きく「不安」と書いてあったのだろうが、それを察してドクターが微笑んだ。 「いや、大事なのは安心感なんですよ。 誰かと一緒だという安心感が必要なんです」と言った。あまり脅かすなよとほっとしたが、結果として、私は、その日以後、一人で外出したことはなく、今や腰痛があるから、外出しないどころか、できない体になった。 ここと思えば、またアチラというように、各地で地震が起きていて、テレビなどでも毎日のように専門家を読んで解説を求めたりしている。 もし首都直下型なら死者は何万人以上といった予測もあるが、私は、あまり怖がっても仕方がないと思っている。大地震が起きたとき、自分がどういう場所に、どういう状態でいるかだけの運でしかないと思っている。 なんて書くと、若いときならそんなことは言えないはずだと笑われそうだ。いや、その通りだ。
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