暇つぶし日記

思いつくままに記してみよう

イタリア仕出し屋で

2019年02月11日 00時19分51秒 | 喰う

 

毎週その前を通るのに今まで気にかけてもいなかった店に入ることになった。 今は他の町に住む娘があそこの料理は美味いと勧めてくれたのでそこに行ってみることにした。 知り合いの古LP/CD/DVD屋の斜め前の店で入口が狭いもので通りに出した小さな丸テーブル二つから通るたびにそこはイタリアンカフェーだと思っていた。 いつもそこではイタリア語が飛び交っているし殆どが女性ばかりだから自分の入るところではないと思っていたしカフェーなら他に自分がゆったりできるところがいくつもある。 何をわざわざ姦しい女ばかりのところに入ることがあるのかと斜めに見ていた。

家人は娘の評判を基に自分の妹二人と何週間か前にそこでランチにしてえらく気に入っていて土曜の午後マーケットに行くときに娘と家人の三人で試してみようという事になったのだった。 自分は量は喰えないから他の者たちが注文したものを摘まんでいればいいと踏んでいた。 家人はそこで喰った煮物のカーボネロ(黒キャベツ)、イタリア、トスカーナ地方が原産と言われている葉キャベツの一種で、オランダでは椰子キャベツ(palmkool)と呼ばれているものが印象に残ったといっており、2週間ほど前に共同農園を散歩で訪れた時にそれを見ていたからそれも試してみたかった。 そこに行こうと思ったのは家人も娘も好みではない自分が好きなトリフのラビオリがあると聞いていたからでもある。

そこは女ばかり4人でやっている仕出し屋のようだ。 自分で粉を捏ね、詰め物、煮物を用意してパスタやラビオリなど、それに肉の煮ものも次々に作られできる度にショウウインドウに並べ持ち帰りの客に提供する仕組みなのだが小さいテーブルが8つに長テーブル一つを鰻の寝床のようなスペースに配したレストランでもあるのだ。 どういうわけか圧倒的に女性が多くまたイタリア人が多い。 それに店の女性たちは誰もオランダ語を解しない。 やりとりは英語なのだがイタリア語のアクセントが強過ぎてこっちの言いたいことが通じているのか確認しなければならないほどだ。

今日はラビオリと煮ものを試すことにした。 肉、チーズ、トリフ、ホウレンソウ、野菜のラビオリに鮭の混ざったソースをかけたもので3人分の腹を満たすのには充分だった。 ソースは簡単なものでバターを溶かしたもので香草のセージのエッセンスをひきだしたもの、鮭のソースにはレモンの皮を擦って散らした香りがついていた。 

煮物はカーボネロ、マッシュルーム、セロリ、赤・黄パプリカ、チコリ、芽キャベツ、ズッキーニなどが盛り合わせられていたけれどそれぞれが別々に調理されておりグリルされたパプリカからは甘く香ばしい味が立ち上がっていたし、ズッキーニやチコリなどには別々に下味が施されており雑然と盛合された煮物の野菜たちからはそれぞれの特徴ある味が立ち上がってくる。 初めて口にした黒キャベツ・カーボネロはその名の通り畑では椰子の葉のように緑に育っていたけれど煮物にされれば黒く伸びて歯ごたえがある。 味はキャベツか味の濃いパクチョイのようで特筆すべきは何か中東の香料を思わせる特徴ある味が含まれていることだ。 グラスの赤ワインを注文してこういう美味いときの特例とした。 直に死ぬ末期癌患者なのだから何をしてもいいのだがまだ死ぬほど苦しい目をしたくないのでほどほどにしておく。 飲むといっても舐めるだけでグラスの一割ほどを喉に入れて後は酒も煙草も嗜む医者である娘の腹に入った。 

パンが美味かったので帰りに一つ求めて帰った。 ラビオリのソースが美味かったのでパンで皿のソースをこそげるようにして喰ったのだがイタリアパンが懐かしく知らぬ間に千切っては口にしていた。 基本は粘りのある中身なのだが側というか皮が香ばしく懐かしさに魅了された。 ちゃんとした薪の窯で焼かれたピザの側の味だ。 自分が子供のころから青年期まで毎年撞いた餅やそれから乾かして作ったかき餅を火鉢で焼いた香ばしさでもあり、夏の休暇に出かけたフランスの田舎で朝、村のパン屋に出かけて出来立てのクロワッサンとともに無造作に包まれたバゲットの捻ればパリパリこぼれる皮の香ばしさでもある。 こういうものはその日のうちでなければ美味くないのだがこのイタリアパンは二日目にオーブンで焼けばその香ばしさが戻ってきた。

 

 



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