冬道麻子さんの第五歌集『梅花藻』が刊行されました。
何事ぞ母はときどき惚けてはわれを奈落のさみしさに置く
煉瓦にて囲いし父の花壇には春が咲きおり陽(ひ)がこぼれおり
水槽のホテイアオイの細き根よ脚力ゼロという姿にて
丑三つに眠れぬ母が部屋に来てひたすら我ら蜜柑食べあう
抱っこしてやりにし甥にわたくしがひょいと抱き上げられて不思議な
前庭の五月の花をみせたしと甥はしずかに疊におろす
指先にティッシュペーパー引き上げる耳澄むようなやさしきちから
おもいでと共に残りし怪我の痕いくつか消えていくつか残る
救急車夜のしじまにサイレンを投げ縄の輪をまわすごと来ぬ
治療法なきゆえ診察すぐ終わり主治医とながむる庭の紫陽花
放課後のごとき時間がひろがりぬ看護師たちの帰りたるのち
隣室の父が「見舞いに来ました」と藤椅子までの遅々たる歩み
生きながら記憶のなべてなくすのか待って母さん追うて疲るる
初めてのバイト代にて矢車草を自分のために買いし思い出
二十代後半よりベッドでの生活を余儀なくされている冬道さん。介護を受けてきた両親の老いに向き合いながら、不安や憤りを抱きつつなお、豊かさにあふれている。周囲の人たちに大切に見守られているのは、この人が弱いからではなくて、人として豊かで魅力的だからなんだなぁということがじわじわ伝わってくる。
人を大切にしたり人にやさしくなりたいと思う。
塔の4月号P.160に歌集購入の申し込みの案内がでています。ぜひお申込みください。(送料税込み3,000円)
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