フィリッピンの戦雲緊迫<o:p></o:p>
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敵大輸送船団、フィリッピン、リンガエン湾に進入、第二、第三の大輸送船団も西進中なりと。ついにルソン決戦の火ぶた切って落さる。<o:p></o:p>
陸軍観兵式宮城前にて行わる。B29ついにわが天皇をして代々木原頭に御馬首を進めざらしむ。情けなき次第なり。<o:p></o:p>
九日(火)午前曇午後晴<o:p></o:p>
午後第一教室にて山辺中佐の戦局論。(中学や大学に配属され軍事教練を受け持つ予備役の将校と推測されます)およそ一国強大なりといえども、戦線伸ぶれば強弩の末となりて弱国の力と釣り合うものなり。重慶が日本になお抵抗するのはこの理に基づく。このゆえにアメリカがいかに物量大なりとも、必ずや攻勢の終末点あるに相違なし。日本は最初この敵の攻勢終末点をガダルカナルに求め、ニューギニアに求め、クエゼリン、ルオットに求め、さらにサイパン、テニヤンに求めたり。<o:p></o:p>
(戦況のじり貧状態を軍人自身で解説しているようで、語りに落ちるといったところでしょう。中佐はその後も綿々と学生たちに檄を飛ばしています。比島がだめならシナ大陸があり、そこがダメなら帝国本土がある、最後の一兵に至るまで戦意を消失するなかれと。)<o:p></o:p>
中佐の談話中、警戒警報発令。時に一時半。間もなく敵四ケ編隊、東京来襲。真青なる空をB29の翼銀色にきらめく。北方にわが戦闘機、白煙を天よりひいて堕つ。西より来る八機編隊中一機の胴に突如白煙わき、たちまち炎舞わして下に墜ちゆきたるものあり。みな歓呼して敵機機数を数うるに、以前八機。さては今墜ちたるはまたも味方戦闘機なるか。体当たりせんとする直前撃墜されたりという者あり。体当たりせるも不充分なりしと叫ぶ者あり。その敵一機、やや遅れ、細き一条の白煙をひき出せるもなお飛びつづく。味方戦闘機、これを待ち受けて飛びかかるも、みなあわやというところにてすれ違い、B29八機ついに全機視界に没す。皆声のみてこの大空の死闘を仰ぐ。三時半警報解除。「医者の蔵書」を読む。<o:p></o:p>