イギリスの旗(ウィキペディア/パブリックドメイン※ユニオンジャックあるいはユニオンフラッグ。アイルランド旗(聖パトリック旗)が含まれることで知られます)
ブレグジットについて知っておくべき全て(BBC 2017年07月12日)
アングル:英首相の「新たな離脱対応」とは何か、その勝算は(ロイター 2019年1月18日)
ブレグジットってそれ自体、大きな問題で(離脱の方向性は決まっていると考えても)ハードかソフトかという問題もありますが、スコットランド独立と北アイルランドの統合問題が絡むという稀にみる混沌とした事件のように思います。
スコットランドの独立志向、ブレグジットで強まる可能性=世論調査(ロイター 2018年9月4日)
スタージョン首相が英国民に呼びかけ:「ブレグジットが嫌なら、スコットランドにいらっしゃい」(Yahooニュース 2017/3/21 ブレイディみかこ 在英保育士、ライター)
スコットランドの独立問題はずっと燻っていて、2014年の国民投票では55%が反対し否決されました。それがブレジットで再燃する恐れがあって、スコットランドは残留志向が強いらしく、ブレグジットをしたらまた独立を問うとか何とかそんな話のようです(最新情報を踏まえている訳ではありません)。しかし女性首相VS女性首相が国内であるとは傍から見て面白い国です(当事者だったら笑えないかもしれません)。イギリス国民はわりと醒めているというか、独立してもいいよという人が半分ぐらいいるとか。平和なんじゃないかと思いますがね。余裕だな?
北アイルランドの問題も厄介ですが(かつてテロの温床でした)、同じアイルランド島内のアイルランドがEUの国だけにより厄介でブレグジット最大の問題と言われているようです。問題の収拾に失敗すると、テロの再発も言われているようです。北アイルランドにおけるイギリス下院の議席は(統一を維持しメイ政権に閣外協力している)民主統一党が10議席、アイルランド統一国家の建設を主張するシン・フェイン党が7議席、無所属1議席。
【ブレグジット超解説】最大の懸案はアイルランド国境を復活させない予防措置「バックストップ」(Newsweek 2019年2月14日 ウィリアム・アンダーヒル)
北アイルランドの人はブレグジット反対派が多く、アイルランド島内に明快な国境を設けることに反対のようです。これに対する提案がバックストップ条項だそうですが、これは国境管理の明確な解決策が見つかるまでEUの関税同盟に止まる案ですから、ブレグジットの意味なしということで離脱派が反対なのだとか。国境復活を避けるために北アイルランドだけにバックストップを適用し、イギリス本土をEUの関税同盟のルールから離脱させるという案もメイ政権を支える民主統一党の反対で実現困難なのだそうです。民主統一党は北アイルランドがイギリスの他の地域と違う扱いを受けるのが許せないのだそう。
詳しくありませんが、以上を前提に考えるとメイ政権においてどうなるかは意外と絞られると思います(上記記事によると、585ページに及ぶ離脱協定案の大半に関して、議員の多くに異論はないのだとか)。
まず、何も合意できずハードブレグジットになると仮定すると、バックストップ適用は出来ませんから、明快な国境を造るか造らないかということにならざるを得ません。恐らく(さすがに)造ると決められないと思いますが、そうなると北アイルランドを通じて結局EUと繋がってしまいイギリスに何のメリットもない(移民など完全にアイルランドを通じてザルになります)ということになります。そうだとすれば国境を造るしかないのですが、独立を目指す勢力も根強い以上、まず破局であるようにしか思えません。多分、ハードブレグジットになったらイギリスは北アイルランドを失う可能性が高いのではないでしょうか(それを覚悟してソフトブレグジットを蹴ることになると思います)。
それを避けるにはソフトブレグジットしかありません。ここでソフトブレグジットが一度否決された理由を振り返ると、国境問題に行き着きます。つまり、ハードブレグジットを辞さない強硬離脱派の方々は、北アイルランドを切るか、国境問題をとるかの二択を迫られていると考えられます(有力ですから選択できると考えられます)。もう一つの撹乱要素である北アイルランドの保守政党民主統一党の方々から見れば、自分たちが死ぬか(統一党はハードブレグジットの混乱で生き残れるか疑問です)、北アイルランドが特別扱いされるか(容認できないようです)、何とかソフトブレグジットが纏まるように願うかしかありません。
メイ政権案とは、期限を設けないバックストップで「長期的には、テクノロジーに期待する見方もある。例えば、貨物が倉庫を出る前に、税関申告ができるシステムが開発されるのではないか。X線検査やスクリーニング審査、車両番号の自動認識などを組み合わせれば、国境で物理的に止める必要はなくなる。」という話もあるようですから、ともかくしばらくは(技術などにより解決されるまでは)EU関税同盟に止まり、アイルランド国境を開放しておくという案のようです。これなら少なくとも北アイルランドの問題はあまり無さそうではあります。
アイルランドの立場で見れば、ハードブレグジットはアイルランド島に厄介な問題が起こり、巻き込まれる恐れもありますが、基本的には北アイルランドの問題でしょうし、アイルランドが巻き込まれる時にはイングランドも巻き込まれるでしょうし(チキンレースだとしてもイギリス側も苦しそうです)、まかり間違えばアイルランド統一の「悲願」が達成される巨大なメリットがあるとも考えられ、(特に民族派は)イギリス強硬離脱派よりあるいは譲歩しないんじゃないかという気もします。また、アイルランドは金融が盛んでブレグジットを歓迎する見方と貿易関係から歓迎しない見方があって経済面では五分五分という話のようです(復調のアイルランドは英EU離脱で恩恵を受けるのか? 2017年3月30日)。実際にアイルランドは強硬離脱の意見に対し頑なな態度を貫いているようです。アイルランドの協力がなければ、国境問題を解決するならば(アイルランド島内での国境強化はやはり現実的ではないようにも見えます)、短中期的には北アイルランド-本土間の「国境」を考えるしかありません。
EUの立場で見ると、経済面ではアイルランドと似たような立場ではあるのでしょう。政治面でもどちらにしても離脱であって、島の問題にあまり真剣でない可能性もあると思います。少なくとも全くの当事者はイギリス及びアイルランドではないでしょうか。イギリスは元々自国の通貨ポンドも保持するなど特別な立場を維持してきました。イギリスはEU内の大国ではあるものの、その意味で離脱の痛手は比較的軽度と見ることは出来ます。
そもそもブレグジット自体、国民投票で引き起こされた「問題」です。そう考えると、イングランドを筆頭としたイギリス人が北アイルランドをどう見ているかが問題の鍵を握るのかもしれません。国民投票の時点では、経済的に大変な問題があるということが分からなかったという声もあるようですし、ましてや北アイルランドのテロや統合の問題が再浮上する可能性まで考えていなかったとも考えられます。今更ブレグジット取り止めを国民やメイ政権・保守統一党政権が決断する可能性が薄いにせよ、こうした問題を踏まえ、イギリスの基本的立場としては、ハードブレグジットをしても良いのか(経済的な打撃と北アイルランド問題リスクを容認できるのか)、離脱のメリットを十分に発揮できないソフトブレグジットを容認するのかという二択になるような気がします(決定権はイギリス議会及びイギリス政府にありイギリス世論がそれを支えます)。恐らくはアイルランドとEUの譲歩を促す作戦は現状の厳しい見通しを考えても少なくとも大きくは成功しないように思えます。イギリスは議員内閣制であり、場合によっては総選挙及び政権交代マターに発展する恐れもあります。
ブレグジットについて知っておくべき全て(BBC 2017年07月12日)
アングル:英首相の「新たな離脱対応」とは何か、その勝算は(ロイター 2019年1月18日)
ブレグジットってそれ自体、大きな問題で(離脱の方向性は決まっていると考えても)ハードかソフトかという問題もありますが、スコットランド独立と北アイルランドの統合問題が絡むという稀にみる混沌とした事件のように思います。
スコットランドの独立志向、ブレグジットで強まる可能性=世論調査(ロイター 2018年9月4日)
スタージョン首相が英国民に呼びかけ:「ブレグジットが嫌なら、スコットランドにいらっしゃい」(Yahooニュース 2017/3/21 ブレイディみかこ 在英保育士、ライター)
スコットランドの独立問題はずっと燻っていて、2014年の国民投票では55%が反対し否決されました。それがブレジットで再燃する恐れがあって、スコットランドは残留志向が強いらしく、ブレグジットをしたらまた独立を問うとか何とかそんな話のようです(最新情報を踏まえている訳ではありません)。しかし女性首相VS女性首相が国内であるとは傍から見て面白い国です(当事者だったら笑えないかもしれません)。イギリス国民はわりと醒めているというか、独立してもいいよという人が半分ぐらいいるとか。平和なんじゃないかと思いますがね。余裕だな?
北アイルランドの問題も厄介ですが(かつてテロの温床でした)、同じアイルランド島内のアイルランドがEUの国だけにより厄介でブレグジット最大の問題と言われているようです。問題の収拾に失敗すると、テロの再発も言われているようです。北アイルランドにおけるイギリス下院の議席は(統一を維持しメイ政権に閣外協力している)民主統一党が10議席、アイルランド統一国家の建設を主張するシン・フェイン党が7議席、無所属1議席。
【ブレグジット超解説】最大の懸案はアイルランド国境を復活させない予防措置「バックストップ」(Newsweek 2019年2月14日 ウィリアム・アンダーヒル)
北アイルランドの人はブレグジット反対派が多く、アイルランド島内に明快な国境を設けることに反対のようです。これに対する提案がバックストップ条項だそうですが、これは国境管理の明確な解決策が見つかるまでEUの関税同盟に止まる案ですから、ブレグジットの意味なしということで離脱派が反対なのだとか。国境復活を避けるために北アイルランドだけにバックストップを適用し、イギリス本土をEUの関税同盟のルールから離脱させるという案もメイ政権を支える民主統一党の反対で実現困難なのだそうです。民主統一党は北アイルランドがイギリスの他の地域と違う扱いを受けるのが許せないのだそう。
詳しくありませんが、以上を前提に考えるとメイ政権においてどうなるかは意外と絞られると思います(上記記事によると、585ページに及ぶ離脱協定案の大半に関して、議員の多くに異論はないのだとか)。
まず、何も合意できずハードブレグジットになると仮定すると、バックストップ適用は出来ませんから、明快な国境を造るか造らないかということにならざるを得ません。恐らく(さすがに)造ると決められないと思いますが、そうなると北アイルランドを通じて結局EUと繋がってしまいイギリスに何のメリットもない(移民など完全にアイルランドを通じてザルになります)ということになります。そうだとすれば国境を造るしかないのですが、独立を目指す勢力も根強い以上、まず破局であるようにしか思えません。多分、ハードブレグジットになったらイギリスは北アイルランドを失う可能性が高いのではないでしょうか(それを覚悟してソフトブレグジットを蹴ることになると思います)。
それを避けるにはソフトブレグジットしかありません。ここでソフトブレグジットが一度否決された理由を振り返ると、国境問題に行き着きます。つまり、ハードブレグジットを辞さない強硬離脱派の方々は、北アイルランドを切るか、国境問題をとるかの二択を迫られていると考えられます(有力ですから選択できると考えられます)。もう一つの撹乱要素である北アイルランドの保守政党民主統一党の方々から見れば、自分たちが死ぬか(統一党はハードブレグジットの混乱で生き残れるか疑問です)、北アイルランドが特別扱いされるか(容認できないようです)、何とかソフトブレグジットが纏まるように願うかしかありません。
メイ政権案とは、期限を設けないバックストップで「長期的には、テクノロジーに期待する見方もある。例えば、貨物が倉庫を出る前に、税関申告ができるシステムが開発されるのではないか。X線検査やスクリーニング審査、車両番号の自動認識などを組み合わせれば、国境で物理的に止める必要はなくなる。」という話もあるようですから、ともかくしばらくは(技術などにより解決されるまでは)EU関税同盟に止まり、アイルランド国境を開放しておくという案のようです。これなら少なくとも北アイルランドの問題はあまり無さそうではあります。
アイルランドの立場で見れば、ハードブレグジットはアイルランド島に厄介な問題が起こり、巻き込まれる恐れもありますが、基本的には北アイルランドの問題でしょうし、アイルランドが巻き込まれる時にはイングランドも巻き込まれるでしょうし(チキンレースだとしてもイギリス側も苦しそうです)、まかり間違えばアイルランド統一の「悲願」が達成される巨大なメリットがあるとも考えられ、(特に民族派は)イギリス強硬離脱派よりあるいは譲歩しないんじゃないかという気もします。また、アイルランドは金融が盛んでブレグジットを歓迎する見方と貿易関係から歓迎しない見方があって経済面では五分五分という話のようです(復調のアイルランドは英EU離脱で恩恵を受けるのか? 2017年3月30日)。実際にアイルランドは強硬離脱の意見に対し頑なな態度を貫いているようです。アイルランドの協力がなければ、国境問題を解決するならば(アイルランド島内での国境強化はやはり現実的ではないようにも見えます)、短中期的には北アイルランド-本土間の「国境」を考えるしかありません。
EUの立場で見ると、経済面ではアイルランドと似たような立場ではあるのでしょう。政治面でもどちらにしても離脱であって、島の問題にあまり真剣でない可能性もあると思います。少なくとも全くの当事者はイギリス及びアイルランドではないでしょうか。イギリスは元々自国の通貨ポンドも保持するなど特別な立場を維持してきました。イギリスはEU内の大国ではあるものの、その意味で離脱の痛手は比較的軽度と見ることは出来ます。
そもそもブレグジット自体、国民投票で引き起こされた「問題」です。そう考えると、イングランドを筆頭としたイギリス人が北アイルランドをどう見ているかが問題の鍵を握るのかもしれません。国民投票の時点では、経済的に大変な問題があるということが分からなかったという声もあるようですし、ましてや北アイルランドのテロや統合の問題が再浮上する可能性まで考えていなかったとも考えられます。今更ブレグジット取り止めを国民やメイ政権・保守統一党政権が決断する可能性が薄いにせよ、こうした問題を踏まえ、イギリスの基本的立場としては、ハードブレグジットをしても良いのか(経済的な打撃と北アイルランド問題リスクを容認できるのか)、離脱のメリットを十分に発揮できないソフトブレグジットを容認するのかという二択になるような気がします(決定権はイギリス議会及びイギリス政府にありイギリス世論がそれを支えます)。恐らくはアイルランドとEUの譲歩を促す作戦は現状の厳しい見通しを考えても少なくとも大きくは成功しないように思えます。イギリスは議員内閣制であり、場合によっては総選挙及び政権交代マターに発展する恐れもあります。