3バカトリオは私のTさんを愚弄しただけでなく、セコくて、どうしようもない奴らだった。
暫くしてスチールのアングルを使って四角いフレームで組み立ててた棚のようなものを前後にぶら下げた天秤棒を担いで若い男がやってきた。
「あれあれ。あれがモヒンガー売りですよ」
と3バカトリオに負けずにTさんが解説してくれた。
モヒンガーはミャンマーうどんと表現したらいいのかラーメンと呼べばいいのかわからないが、つまりミャンマーの麺料理で、私はチャンスがなくまだ食べたことがない。
彼が担いでいる天秤棒の一方の棚には七輪と壺の形をした金属製の鍋が載っており、もう片方の棚には丼や具、調味料入れが載っていた。
3人はこのモヒンガー売りの兄ちゃんを呼び止め、モヒンガーを注文した。
働きもしていないのに金を持っているとは大したもんだ。
これではまるで日本のニートと同じではないか。
モヒンガー売りの兄ちゃんは3人の前で天秤を下ろし、注文に応じてモヒンガーを三杯作った。
こういうとき、落語であれば客とモヒンガー売りの兄ちゃんとのあいだで会話が交わされなければならない。
しかしガラの悪い3人はモヒンガー売りの兄ちゃんなのぞ存在しないかのように一心不乱に食べていた。
モヒンガー売りの兄ちゃんは暫くしゃがみ込んで客が食べ終るのを待ち続けていたが、ちょっと時間がかかりそうだと思ったのか、空の鍋を持ってどこかへ行った。
「あ~、あの人たちスープ盗んでる!」
とTさんが日本語で小さく叫んだ。
あの3バカトリオは店の主人が留守にしているのを良いことに、スープの入った鍋からお玉でスープをすくい自分たちの丼へ少しづつ失敬しているのだ。
なんてやつらだ。
そこへ水をもらって店主の兄ちゃんが戻ってきたのであるが、スープ盗難にはまったく気づくことなく空になった3バカの丼を回収し、バケツで丼を洗って立ち去ったのだった。
同じような年格好の兄ちゃんがモヒンガーを行商しながらしっかり働いているのに、あいつらはなんとも考えないのだろうか。
と、それをただただ遠望している私もTさんも同罪のような気がしないでもないが。
ともかく働かざるもの食うべからず、というのはここミャンマーでも同じはずなので、あの3人は是非とも反政府ゲリラと命がけで戦っている軍隊にでも入れて鍛えていただきたいと考えていた。が、そのときふと、
「あ!私もモヒンガーを食べれば良かった!」
と兄ちゃんがどこかへ行ってしまってからモヒンガーを食べるチャンスを逃したことに気づいた私なのであった。
ヤンゴンへ向かう列車は私の予想通り、だいたい30分から40分間隔にここタッコン駅を通り過ぎた。
その間、あの3バカを観察していたのであるが、さすがに相手がアホであるだけに、観察してもまったくためにならず、新しいものも発見することもままならず次第に飽きてしまった。
3人に飽きて別の方向をずっと停車し続けている車窓から眺めると、線路脇に積まれたニッパヤシを編んだムシロのようなものを荷馬車に積み込んでいるオッサンの姿が目にとまった。
このムシロのようなものは住居の屋根を葺く材料なのだ。
オッサンは汗を流しながら荷馬車に山のようにニッパヤシのムシロを積んでいく。
その馬車を引く馬は日本の馬と同じように身体が小さい。
一瞬「........ロバかな?」と思ったが、やはり馬のようだ。
ミャンマーは服装やお寺の恰好こそ違え、文化や風習は日本と似ているところが少なくなく、さらに人となると身体の大きさはともかく日本人と非常に良く似ている。
人が似ていると馬まで似てくるのだろうか。
ともかく、その小さな馬が自分の体格の10倍も20倍もありそうな荷馬車を引かされるのだ。
きっと馬1頭といいながら、身体のサイズからして1馬力はないのではなかろうか。
お気の毒としか言いようがない。
このお気の毒な馬の周りを、放し飼いの黒ブタがブイブイ鼻を鳴らし、雑草や土の匂いを嗅ぎながら歩いていた。
このブタと馬の関係は飼い犬と猫の関係に似ていると言えなくもない。
しかし、馬は飼い犬と同じかも知れないが、ブタは猫と異なりやがて人に食われる運命にあり、そういう過酷な極刑が待ち受けていることもツユ知らず馬をバカにするように地面をかぎ回るブタもまたお気の毒としか言いようがない。
「........豚カツ食べたい........」
黒豚を見て思わず呟く私であった。
しかし、ここで良く観察してみると馬はかなり大胆な行動をしていたのだ。
それは、今まさに自分が繋がれている荷台に乗せられているニッパヤシのムシロを、美味そうに食べている姿だったのだ。
商品を食べるというのは主人に対する馬のささやかな抵抗なのか、それともただ単に腹が減っているだけなのか。
それにしても実にシニカルな光景だったのだ。
つづく
暫くしてスチールのアングルを使って四角いフレームで組み立ててた棚のようなものを前後にぶら下げた天秤棒を担いで若い男がやってきた。
「あれあれ。あれがモヒンガー売りですよ」
と3バカトリオに負けずにTさんが解説してくれた。
モヒンガーはミャンマーうどんと表現したらいいのかラーメンと呼べばいいのかわからないが、つまりミャンマーの麺料理で、私はチャンスがなくまだ食べたことがない。
彼が担いでいる天秤棒の一方の棚には七輪と壺の形をした金属製の鍋が載っており、もう片方の棚には丼や具、調味料入れが載っていた。
3人はこのモヒンガー売りの兄ちゃんを呼び止め、モヒンガーを注文した。
働きもしていないのに金を持っているとは大したもんだ。
これではまるで日本のニートと同じではないか。
モヒンガー売りの兄ちゃんは3人の前で天秤を下ろし、注文に応じてモヒンガーを三杯作った。
こういうとき、落語であれば客とモヒンガー売りの兄ちゃんとのあいだで会話が交わされなければならない。
しかしガラの悪い3人はモヒンガー売りの兄ちゃんなのぞ存在しないかのように一心不乱に食べていた。
モヒンガー売りの兄ちゃんは暫くしゃがみ込んで客が食べ終るのを待ち続けていたが、ちょっと時間がかかりそうだと思ったのか、空の鍋を持ってどこかへ行った。
「あ~、あの人たちスープ盗んでる!」
とTさんが日本語で小さく叫んだ。
あの3バカトリオは店の主人が留守にしているのを良いことに、スープの入った鍋からお玉でスープをすくい自分たちの丼へ少しづつ失敬しているのだ。
なんてやつらだ。
そこへ水をもらって店主の兄ちゃんが戻ってきたのであるが、スープ盗難にはまったく気づくことなく空になった3バカの丼を回収し、バケツで丼を洗って立ち去ったのだった。
同じような年格好の兄ちゃんがモヒンガーを行商しながらしっかり働いているのに、あいつらはなんとも考えないのだろうか。
と、それをただただ遠望している私もTさんも同罪のような気がしないでもないが。
ともかく働かざるもの食うべからず、というのはここミャンマーでも同じはずなので、あの3人は是非とも反政府ゲリラと命がけで戦っている軍隊にでも入れて鍛えていただきたいと考えていた。が、そのときふと、
「あ!私もモヒンガーを食べれば良かった!」
と兄ちゃんがどこかへ行ってしまってからモヒンガーを食べるチャンスを逃したことに気づいた私なのであった。
ヤンゴンへ向かう列車は私の予想通り、だいたい30分から40分間隔にここタッコン駅を通り過ぎた。
その間、あの3バカを観察していたのであるが、さすがに相手がアホであるだけに、観察してもまったくためにならず、新しいものも発見することもままならず次第に飽きてしまった。
3人に飽きて別の方向をずっと停車し続けている車窓から眺めると、線路脇に積まれたニッパヤシを編んだムシロのようなものを荷馬車に積み込んでいるオッサンの姿が目にとまった。
このムシロのようなものは住居の屋根を葺く材料なのだ。
オッサンは汗を流しながら荷馬車に山のようにニッパヤシのムシロを積んでいく。
その馬車を引く馬は日本の馬と同じように身体が小さい。
一瞬「........ロバかな?」と思ったが、やはり馬のようだ。
ミャンマーは服装やお寺の恰好こそ違え、文化や風習は日本と似ているところが少なくなく、さらに人となると身体の大きさはともかく日本人と非常に良く似ている。
人が似ていると馬まで似てくるのだろうか。
ともかく、その小さな馬が自分の体格の10倍も20倍もありそうな荷馬車を引かされるのだ。
きっと馬1頭といいながら、身体のサイズからして1馬力はないのではなかろうか。
お気の毒としか言いようがない。
このお気の毒な馬の周りを、放し飼いの黒ブタがブイブイ鼻を鳴らし、雑草や土の匂いを嗅ぎながら歩いていた。
このブタと馬の関係は飼い犬と猫の関係に似ていると言えなくもない。
しかし、馬は飼い犬と同じかも知れないが、ブタは猫と異なりやがて人に食われる運命にあり、そういう過酷な極刑が待ち受けていることもツユ知らず馬をバカにするように地面をかぎ回るブタもまたお気の毒としか言いようがない。
「........豚カツ食べたい........」
黒豚を見て思わず呟く私であった。
しかし、ここで良く観察してみると馬はかなり大胆な行動をしていたのだ。
それは、今まさに自分が繋がれている荷台に乗せられているニッパヤシのムシロを、美味そうに食べている姿だったのだ。
商品を食べるというのは主人に対する馬のささやかな抵抗なのか、それともただ単に腹が減っているだけなのか。
それにしても実にシニカルな光景だったのだ。
つづく