ベトナムに到着して最初に驚いたのは、私が出会ったこの街の人は誰もホーチミン市をホーチミン市と呼ばないことであった。
「サイゴンへようこそ!」
とメコン川ツアーのガイドのターイさんは言った。
「お客さん、サイゴン初めて?」
と土産物屋の店員は言った。
「ここはサイゴン。SARSはハノイだから関係ないね」
とバイクタクシーのドンさんは言った。
そう。
役人と外国人以外はこの街をホーチミン市と呼ばないことに衝撃を受けたのだ。
独立の父。
ホーおじさん。
胡志明。
またの名を阮愛国。
南ベトナム解放後、故ホー・チミンの名前をとってサイゴンからホーチミン市に改名されたのだが、それは北からやってきた政権が勝手にやったことで市民は関係ない。
彼らは現在もなお「サイゴン=西貢」と呼んでいるのであった。
で、続いてビックリしたのはベトナムの民族衣裳「アオザイ」をここでは「アオヤイ」と呼ぶことであった。
これは後々判明したのだが、北ベトナムでは「アオザイ」で南ベトナムでは方言で「アオヤイ」と呼ぶのだ。
つまり南ベトナムの人々は「ザジズゼゾ」の発音が苦手なのだ。
これは丁度、江戸っ子が「し」と「ひ」の発音が苦手なのと同じなのだ。
「あの白いのが女子高生のアオヤイです」
とガイドさん。
「アオヤイ、ってなんです?」
と私。
「アオヤイは、アオヤイです。」
「アオザイのことは、本当はアオヤイって言うんですね」
「アオヤイです」
と、漫才のような分けのわからない会話をガイドのターイさんと交したのであった。
そして、最後に驚愕したのはメコンデルタの雄大さであった。
初めてメコン川をゴールデントライアングで目にした時は、
「河口から何千キロも離れているのに、大阪湾フェリーくらいもある船が行き来しているやん」
とビックリしたのだったが、河口近くのメコン川を見た私は、
「これって川? 瀬戸内海より広いやん」
とまたまたビックリしてしまったのであった。
「地獄の黙示録みたいだね」
と言っては喜んでる豪州人と英国人のツアー客に混じってのデルタ一日ツアーは、めちゃくちゃ印象的だったのである。
「メコンデルタを見ること」
という目的を果たした次の私の目的は、
「ビーチへ行くこと」
であった。
考えてみれば、この時すでに二ケタになっていたタイへの訪問の中で、一度もビーチを訪れていないことに私は気付いていた。
でも、これには原因があった。
私は常に一人旅なのでビーチへ出向いて、女の子とビーチボールでバレーボールを楽しみながら、
「キャハハハ!」
などという状況になるはずはなく、
「けっ、ビーチのどこがオモロイねん」
と一人で勝手にひがんでいたのであった。
しかし、ひがんでばかりいても情けないので、ともかくビーチへ行くことにした。
で、目指したのはバンコクから日帰りで行けるホアヒンというビーチだった。
つづく
「サイゴンへようこそ!」
とメコン川ツアーのガイドのターイさんは言った。
「お客さん、サイゴン初めて?」
と土産物屋の店員は言った。
「ここはサイゴン。SARSはハノイだから関係ないね」
とバイクタクシーのドンさんは言った。
そう。
役人と外国人以外はこの街をホーチミン市と呼ばないことに衝撃を受けたのだ。
独立の父。
ホーおじさん。
胡志明。
またの名を阮愛国。
南ベトナム解放後、故ホー・チミンの名前をとってサイゴンからホーチミン市に改名されたのだが、それは北からやってきた政権が勝手にやったことで市民は関係ない。
彼らは現在もなお「サイゴン=西貢」と呼んでいるのであった。
で、続いてビックリしたのはベトナムの民族衣裳「アオザイ」をここでは「アオヤイ」と呼ぶことであった。
これは後々判明したのだが、北ベトナムでは「アオザイ」で南ベトナムでは方言で「アオヤイ」と呼ぶのだ。
つまり南ベトナムの人々は「ザジズゼゾ」の発音が苦手なのだ。
これは丁度、江戸っ子が「し」と「ひ」の発音が苦手なのと同じなのだ。
「あの白いのが女子高生のアオヤイです」
とガイドさん。
「アオヤイ、ってなんです?」
と私。
「アオヤイは、アオヤイです。」
「アオザイのことは、本当はアオヤイって言うんですね」
「アオヤイです」
と、漫才のような分けのわからない会話をガイドのターイさんと交したのであった。
そして、最後に驚愕したのはメコンデルタの雄大さであった。
初めてメコン川をゴールデントライアングで目にした時は、
「河口から何千キロも離れているのに、大阪湾フェリーくらいもある船が行き来しているやん」
とビックリしたのだったが、河口近くのメコン川を見た私は、
「これって川? 瀬戸内海より広いやん」
とまたまたビックリしてしまったのであった。
「地獄の黙示録みたいだね」
と言っては喜んでる豪州人と英国人のツアー客に混じってのデルタ一日ツアーは、めちゃくちゃ印象的だったのである。
「メコンデルタを見ること」
という目的を果たした次の私の目的は、
「ビーチへ行くこと」
であった。
考えてみれば、この時すでに二ケタになっていたタイへの訪問の中で、一度もビーチを訪れていないことに私は気付いていた。
でも、これには原因があった。
私は常に一人旅なのでビーチへ出向いて、女の子とビーチボールでバレーボールを楽しみながら、
「キャハハハ!」
などという状況になるはずはなく、
「けっ、ビーチのどこがオモロイねん」
と一人で勝手にひがんでいたのであった。
しかし、ひがんでばかりいても情けないので、ともかくビーチへ行くことにした。
で、目指したのはバンコクから日帰りで行けるホアヒンというビーチだった。
つづく