とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ウォークマンはiPodに勝てるのか

2005年02月16日 22時41分04秒 | 経済
かつて東京通信工業という会社があった。
大東亜戦争敗戦後、東京都内にあった百貨店の一角を借りて、日本を復活させるために若者たちは自分たちの会社を立ち上げた。
生きていくために、ご飯の炊けない電気炊飯器を作って売った。
これでは駄目だと思った。
若者たちは給料の代わりの丼飯で、奮闘した。
そして、
日本最初の「テープレコーダー」を作り上げた。
(以上、プロジェクトXのナレーションの口調で読んでください)

東京通信工業。略称「東通工」。現在のソニーである。
ながらくこの会社は理科系大学卒業生の就職人気ナンバーワンを誇ってきた。ところが一昨年のいわいる「ソニーショック」以来、その名声に異変が生じている。
ソニーはホンダと並び日本の経済発展を代表する会社としてもてはやされてきたが、ここ数年あっという間に「普通の大企業」に落ちぶれてしまった。
それはいったい何が原因なのだろうか。
東通工がソニーと改称したばかりの早い時期に、ヒット商品を連発するソニーにあやかって、ある菓子メーカーが「ソニーチョコレート」という商品を発売した。
ソニーはこれに噛みつき提訴した。
「ソニーというブランドは、電気製品を売るための独自ブランドであり、それをたとえ他業種の商品であっても命名するのは、ブランド権の侵害であり、使用を直ちに停止すべきだ」
というものだった。
ソニーはそれだけ自社が製造していた魅力ある「電気製品(とりわけ音響機器)」に自信をもち、ソニーは最先端の電気製品のブランドという意味を大切にした。
これがいわゆる「ソニーチョコレート訴訟」だ。昭和30年代にしては随分と先進的な裁判であった。
結果としてはソニーが勝訴した。
ソニーというブランドがそれから数年を待たずして「トランジスタラジオ」「テープレコーダー」など当時の先端商品で世界を制覇していったのは、ソニーと関係ない日本人にも誇ることができる伝説だった。
いま、井深大、盛田昭夫という二人の創立者を失ったこの会社は、この創業期におけるブランドパワーを過信した。保険業に参入し、銀行業にも参入した。うまくいくかに見えたが上手くいかなかった。
そのかわり、ファッショナブルで先進のエレクトロニクス商品「ソニー」の看板は、他業種へ進出することで色あせてしまった。

アップルコンピュータの創業者スティーブ・ジョブスは瀕死のアップル社へ復帰して起死回生のiMacを発表したとき「コンピューター業界のソニーを目指したい」と述べた。
その言葉のとおり、アップル社は他のパソコンメーカーとは異質のコンセプトで、パソコンをインテリア化し、ビジネスばかりでなく家庭のかなでの遊びの世界を様々に提案し、革命を起こしている。まさにかつてソニーが消費者に与えたライフスタイルの提案を実行しているのだ。
ソニーは映画会社を買収し、ソニー・ピクチャーズとしているが、ジョブスは自分の映画会社にアップルの看板を掲げさせていない。ジョブスの映画会社は社名をピクサーという。
そしてライフスタイルの提案というジョブスの最新のコンセプトが形になったものが「iPod」。

ソニー・エリクソンが携帯電話に音楽機能を取り入れて「ウォークマン」ブランドで売り出すことを決めたというが、果たして「iPod」に勝てるのか。
創立者のブランドマインドが理解できない後継者のアイデアである。はなはだ疑問だ。