とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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イメージダウン

2005年02月12日 20時04分56秒 | エトセトラ
昨年末から静岡県で放送されている「振り込め詐欺」防止キャンペーンCMが絶大な防犯効果を発揮しているらしい。
なんでも、そのCMは大阪の中年オバサンがカメラに向かって、
「大阪はオレオレ詐欺、めちゃ少ないやんで!」
「静岡の人も気つけや!」
と呼びかける、という趣向のものだそうだ。

2月10日付けの産経新聞夕刊によれば、このCMの評判が伝えられてから、「大阪のイメージがダウンする」という抗議が大阪府庁に殺到し、大阪府が静岡県に正式に不快感を表明することになったという。
大阪のオバサンが品のない大阪弁でまくしたてる姿がみっともないというのだろう。
しかし、少し待って欲しい。
「大阪のオバサン連中が下品である」と世間が表現し出したのはなにも今回が初めてではない。ずっと以前から、この種の「大阪の中年女性は下品です」というテレビ番組やコマーシャルメッセージはあったように思う。
たとえば、駐車違反のキャンペーンCMで、土井たか子風の中年オバサンが、取り締まる警察官に暴言を吐き続けながら迫っていくものがあったし、吉本新喜劇に出てくるコメディアンヌの大半は下品な所作、または言動を売り物の「芸」としている。
だから静岡県のCMが、多少大阪のオバサンをデフォルメしているからといって、怒り出すのはいささか説得力に欠けるのではないかと思うのだ。

大阪の地盤沈下が叫ばれだして久しい。日本経済停滞の責任を一身に背負っている感が関西にはある。
その関西の中心である大阪が沈めば沈むほど、おかしなことに大阪人を含む関西人がある種の固定観念に捕らわれ過ぎているのではないかということを、当の本人が気付いていないのである。
「ボケとツッコミ」「ケバいファッション」「誰でも一つぐらいは吉本ギャグを知っている」
などとテレビやラジオだけでなく一般の人まで言い出してから関西の経済は沈没速度を速めている。しかも文化的創造性まで失っているのだから世話はない。
でも完全に偽りの文化を認めているわけでもない。
だから、他県の広報で、いくら降りこめ詐欺被害ダントツの最低である大阪を取り上げ、それを第三者に印象づけるために自分の本当でない姿をデフォルメされると腹が立つのだ。
「関西はそんなに下品なわけないじゃない」と。

現在の大阪を中心とする関西圏の全国的イメージは吉本芸人を中心にした中身のない、ただ声高で、下品な芸風がもたらしたものと言えないこともない。その源流を遡れば花登筺が人気のテレビシリーズで描いた間違いだらけの大阪弁や、商いに対して関西人がもつシビアな習慣が、全国的に誤解を生んできていたということもできる。
「なんとかで、おま」とか「なになに、やんけ」「ちゃいまっか」
という言葉は、実は大阪弁でも、京都、神戸のものでもない言葉なのだ。
テレビの創りだした言葉であって、そのベースは大阪ではなく、河内や摂津、和泉といった周辺地域の、ちょっと表現が適当でないが小作人などの低い身分の人々が使っていた言葉だったのだ。

学生の頃、志賀高原へスキーに行ったら首都圏から来た同世代の男がしみじみと言っていたのを記憶する。
「大阪の女の子ってカワイイじゃん。言葉、柔らかくて」

イメージを落としているのは大阪人、自分自身なのかもしれない。