とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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しぶちん

2004年12月03日 22時39分07秒 | エトセトラ
とりがら書評

今年は唐沢寿明主演で大学病院を舞台にしたテレビドラマ「白い巨塔」がリメイクされ、大きな話題になった。
その「白い巨塔」の原作者、山崎豊子の初期の短編集が「しぶちん」(新潮文庫)である。

この短編集には表題作「しぶちん」の他に「船場狂い」「死亡記事」「持参金」「遺留品」の4作品が収録されている。
いずれも大阪を舞台にした小説だ。
とりわけ「死亡記事」と「遺留品」が心に響く作品として強く印象に残った。
「死亡記事」は著者の経験を活かした新聞社が舞台の短編だ。
ある日、第二次世界大戦中にその新聞社で主筆を務められた男性の死亡記事を「私」は発見する。
主筆には片足がなかった。
大学を出たばかりの「私」はその片足を失っている主筆が、どうして片足を失ったのか、生涯独身を通したといわれているが、それはまたなぜなのか。時間と共に彼の人生に触れることにより、一個の男の激しい人生を垣間見ることになるだ。
「遺留品」は航空機事故で死亡した大手紡績会社の社長が時計や鞄と共に「あるもの」を遺留品としても残し、周辺に様々な憶測を生み出し、それを秘書が解明して行くという、一種のミステリー作品だ。
子供が無く、長年連れ添ってきた妻だけを大切に愛していたという社長にとって、そのある「遺留品は他人」から見ると奇聞を生んでしまうような物だったのだ。
その社長の秘書であった年若い女性が「あるもの」にまつわる社長の真実を解明し、やがて大きな優しさを見いだし、亡くなった社長に尊敬以上のものを抱いていたことに気付くという多少感傷的ではあるが、胸にじんと染みてくる快作である。
他の三作が大阪文化の特異な部分を興味深く描写している作品で、面白いが私は先述した二作品ほどスキにはなれなかった。東京の人には受けるだろうと思える内容だった。

いずれにせよ、昭和三十四年に発表された本作品集は、現在でも十分に読みごたえのある一冊といえよう。