今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

お身内の形見のPEN-D

2011年06月29日 20時10分32秒 | インポート

Dscf273996 あぢぃ~い。梅雨はどこへ行っちゃったのでしょうか? 昨日も暑い中に大学病院まで出かけて疲れ果て、今日も節電のためにクーラーも点けらず、暑さに慣れない体が悲鳴をあげます。もう、クーラー点けちゃおうかなぁ・・・で、このPEN-D #1928XXはお祖父様かお母様のどちらかが使っていたカメラとのことでご依頼の息子さんとしては今一状況が分からない個体だそうです。まぁ、どちらにしても身内の方が再び使用したいと送ってこられたラッキーなカメラですね。長期の放置(保管ではなくて)のためにレンズカビなどはありますが、フィルムレールの腐食は軽微でレストアに支障は無いと思います。但し、左の吊環が激しく陥没していますね。D系は大きさの割には重量が重いので手が滑って落下させる事故が多いのですが、それにしてもひどい状況です。

Dscf274455 トップカバーを分離して内側から見てみましたら・・・あらら、こけはひどい。吊環が完全に抜けてしまっていますね。PENは吊環のへこみは多いですが、ここまでは初めてかも知れない・・これは無理かもしれないなぁ。

Dscf274115 レンズにもカビはありますが、幸い白濁したような状態ではなくて菌糸状のカビが多い。経験的にこのカビは清掃がしやすいのです。

Dscf274575 トップカバーはここまでだなぁ・・状態の良いPEN-Dのトップカバーは沢山在庫していますので交換した方が早いのですが、形見となるとそうも行きませんね。次はシャッターユニットです。そもそも、この個体は過去に修理歴がありました。シャッターが不調となったのでしょう。D系はS系に比べてシャッタースプリングが強化されている関係で「作動しない」という個体は少ないのですが、ガバナーは完全に固着で低速側は全くダメでしたね。丁寧に組立てて行きます。

Dscf2747111 ところが困ったことになりました。シャッターの部品をチェックしていると・・・あら~ダメだぁ。シャッター羽根をカバーするハウジングにクラックが入っています。一部は欠けて欠落していますが破片がありません。と言うことは・・この個体は過去に落下のために吊環部とレンズの先端部に大きな衝撃を受けて故障となり、修理を受けものの破損部品は交換されず、簡易的な修正で組まれたものと言うことです。この状態ですと、厳密には光軸が狂ってしまうのです。その時交換しておいてくれたらなぁ・・

Dscf274954 オーナーさんとの打ち合わせで、良品のハウジングと交換はしないということになり、それではと接着剤で補強しています。ショックハンマーで軽く叩いただけで中心部分の位置が変化してしまうのですよ。過去の修理時にもゴム系と思われる接着剤を塗布された形跡がありますが、それじゃ無理でしょう。修理はこのカメラが現役当時と思われますが、当時のリペアマンは技量優秀と信じていたのに大したとこはないようです。ちょっとガッカリしました。

Dscf2752441 じつは、一度は完成していたのですが、シャッターテスト中にロックしました。さてはハウジングが持たなかったか? ではなくて、画像の部品。これがシャッター羽根を開閉させている重要な部品。これのカシメが外れています。このように不具合はあまり経験がありませんね。再カシメをしても、多分持たないのではと思います。この部分は意外に力が掛かっているのです。すでに工数の2倍の時間が掛かっていますので、再度の分解は避けたい。素性のよろしくない個体は次々と問題が出てくるのです。

Dscf275385 オーナーさんからはね。「無理して起こさないでしまっておいた方が良かったかも」とのご返事を頂きました。確かにね。完全な状態で眠りについたわけではなくて、そのカメラにも歴史や事情があったのでしょう。そのまま寝かしてあげた方がということも考えないわけではありませんが、そこはそれ、何とか治したいと思うのは私の性ですね。というわけで、二つの不良部品は分かっているので、その部品を交換すれば苦も無く復活させることは出来たのですが、今回は二つとも修理で対応しました。過去の落下が主な原因でしょうけど、そのことも含めてお身内の歴史だと思うからです。1964-1月製の個体ですから、流通在庫を考慮すれば、10月の東京オリンピックの直前に購入されたのではないかと想像します。お住まいが都内世田谷ですから、当時からお住まいでしたら、近くにオリンピック施設もあって、国民が揃ってオリンピック観戦に沸いた時代です。古いカメラ1台から、そのようなことも分かってくるのですね。今度は、オーナーさんが今も残るオリンピック施設などを撮影されては如何かなとか思います。

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部品取りご持参のPEN

2011年06月25日 22時15分06秒 | インポート

Dscf2731261 結構きれいなPENですね。最近のPENは状態の悪いものが多く見受けられますが、この個体は#3589XXと昭和37年12月の製造機で、すでにPEN-Sも発売されており併売されていた頃ですから、PENがそれだけで古いということにはなりません。オーナーさんからは部品取り用のジャンクがついて来ています。シャッター羽根に多少の変形(作動に支障は無い)があり、それと、吊環を程度の良いものに交換をご希望です。この頃の吊環は材質が真鍮製のため磨耗が早く、ストラップをぐるぐる回されると直ぐに磨耗をして真鍮地が露出してしまいます。皆さんもお気をつけください。また、ジャンクからの部品の分離調達については若干の工数を頂戴することになります。

Dscf273215 画像の撮り方がまずかったな。見にくいですが、シャッター羽根にメクレがあります。左はすでにジャンクから調達をしたシャッター羽根。じつは、こちらのユニットの方が製造が新しくて状態も良好、そのままユニットごと移植した方が早いとは思いましたが、オリジナル重視をしたいと言うオーナーさんのご希望でしょうから、面倒な方法を選択します。

Dscf273455 分解をして見ますとね。シャッター羽根の先端が基部の羽根の重なりとは逆にねじれていました。これは、シャッター羽根を無理に捲るようなことをしたためでしょう。その時の損傷がシャッター羽根に残っていたということです。なんで余計なことをしてカメラを壊すかなぁ? 私には理解が出来ないところです。

このシャッターは古い手法の設計で、スローガバナーなどはユニット化されておらず、地板に直接組み込んで行く設計です。これでは、不調の時に瞬時にユニットを入れ替えて結果を見ることが出来ません。私の当時の組立経験でも、同じように組立ても、稀に落第坊主はいるもので、その場合は他のユニットに入れ替えると何事も無かったように良品となることが殆どでした。交換したユニットは別の個体に組みますが、まず問題は無いことが常で、それでも不良となるものは、本当にそのユニットが不良なのです。組立現場では、1台ずつ原因を特定している暇などありません。それは生産技術の仕事ですが、意外に彼らは分からない。結局、組んでいるものにしか感どころは分からないという感じでしたね。

Dscf273715 ほぼ組み上がっていますね。PENとしては内部の状態も非常に良好だと思います。吊環部のへこみ修正をして良品の吊環と交換をしてあります。この後、ファインダーブロックを組んでから本体にドッキングです。よく、光枠の倒れをご指摘頂くことがありますが、ファインダーブロックはトップカバー側に付いており、組立の最後で本体と始めて組み合わされてドッキングをするため、組み合わせによっては光枠の倒れが気になる個体も存在します。設計上と製造の都合により、光枠の基準はゆるめに設定してあったものと推測しています。

Dscf273878 この個体は過去にレンズのクリーニングを受けていると思いますが、その時、シボリ機構も洗浄脱脂されたようです。この部分は僅かな潤滑は必要ですが、この個体は、潤滑不足により、シボリがギシギシと動く状態です。それらを調整して完成となります。洗浄して汚れの落ちたシボ革で、益々きれいな個体となりましたね。コレクションレベルだと思います。


ペンスケッチ展7に行ってきました

2011年06月19日 22時00分09秒 | インポート

Img_193851 都内渋谷で開催されていました、毎年恒例の「ペンスケッチ展7」に訪問してきました。撮影技術を競う趣旨の展示会ではないとは言え、出品のみなさまの創意工夫と努力によって、確実に年々レベルは上がっていて、どれもすばらしい作品に関心しきりで拝見してきました。今年は和紙にプリントした作品も見られて、新しい試みに興味を惹かれました。今回も運営スタッフの皆様ご苦労様でした。

会場にはうちのご常連さんも見えて、私の体調などもご心配を頂きました。わざわざおこし頂きましてありがとうございました。

Dscf271477 「PENの健康診断」も実施致しまして、普段みなさんが使用されているPENを拝見することが出来ました。O/Hで私の手元に送られてくるカメラだけではなく、実際に使用されているカメラを拝見することには興味がありましたが、ベテランさんがお持ちのすばらしいコンディションの個体もあるかと思えば、かなり厳しい状況の個体も見受けられました。

この2台は、診断後、そのままお預かりとなった個体ですよ。手前のEE-3は、今回のペンスケ展に出品されている写真を撮影したカメラですが、シボリが全く作動していませんでしたね。後ろのPEN-Fは、会場でいきなり巻上げが不能となった、なんとタイミングのよい?個体。シャッターユニットにトラブルがありますので、お預かりとなりました。この個体の他にも、PEN-Fの状態が良くないのが気になりました。早めのメンテナンスをお勧めします。

Dscf271684 このコーナーでご紹介しましたので、このまま作業内容のUPを続けますね。巻上げ不能(ロック)の原因を探っていましたが、一番怪しい巻上げギヤ関係は、どこを調べても原因が発見できない。う~ん、こんなことはなんのですがねぇ。と、隣りのテンションシャフトに目をやると・・・あれ? ギヤの歯がちょっと変ですよ。

Dscf271765 あらら、辛うじて繋がっていた歯の部分が無くなってしまいましたよ。開発段階ではギヤ破壊は有ったようですが、製品段階では材質や熱処理などで解決されているはずです。特にシャッター幕側に無理な力が掛かった形跡はありませんので、長年使用による金属疲労でしょうね。この部分の破損事例はあまり多くはありませんが、しかし、とにかくPEN-Fは古いですから今後は増えてくるトラブルでしょう。PEN-FをO/Hせずに使い続けることは無謀のように思えます。早めにメンテナンスをお願いします。この個体の場合はテンションシャフトを交換することになりますが、このギヤと接するアイドルギヤの歯も多少の損傷があるはずです。

Dscf271836 部品はテンション軸ASSYとなります。この部品を組み込みます。

Dscf272355 ピンボケですみませんね。改めてユニットを洗浄後にギヤをチェックしていくと・・・#1.#2ギヤ共状態は良くありませんね。赤でマーキングをした2歯を見てください。強力な力で変形しているのがお分かりでしょうか? 推測すると、まず、テンションギヤが破損して、その欠けた歯が落下して#1ギヤに挟まり、巻上げによって噛み込んでしまったものでしょう。こうなると全てのギヤは信用できなくなります。取りあえず#1ギヤは交換しませんと、接する#2ギヤの損傷や、巻上げ感触の悪化(回転ムラ)が発生します。

Dscf272422 不良ギヤを交換して組み上げています。ブレーキのOリングはゴムの硬化のため固着傾向にありますので交換をしてあります。

Dscf272644 この個体の状態は例えれば「砂が入ったご飯を食べてガタガタに欠けた歯」状態でしたね。全反射ミラーは拭きキズが多く劣化していますので交換しました。これらの交換で調子よく仕上がっていますが、プリズムの腐食はあります。オーナーさんが購入店から「O/Hずみなので永く使えますよ」と言われたそうですが、どこが、ミラーの拭きキズ以外は手を付けた形跡はありませんでした。まぁ、O/Hの定義も曖昧ですからね・・・

Dscf2727671 EE-3ですが、シボリ羽根が張り付いて開いていないのですね。全体のメンテナンスをして行きます。

Dscf272958 張り付きを解除して羽根を点検しますと1ヵ所強く当っている部分がありますね。この個体は過去に未分解ですので、元々工場で組まれた時からの部品の品質精度でしょうね。修正をして再度の張り付きを予防する処置を取ります。

Dscf273023 EE精度はメーター感度が少し低下ぎみでしたね。調整をしてあります。その他、ファインダー清掃、圧板研磨、裏蓋モルトの貼り替えをして完成しています。最後に、前面のフィルターリングが緩んできますね。ここは本来はネジロックを塗布して組まれていますから緩まないのですが、フィルターの脱着を繰り返しているうちに緩んでしまったのでしょう。稀には見受けますね。では、またすばらしい写真をお撮りください。


恐らく未分解のPEN-W

2011年06月17日 21時22分35秒 | インポート

Dscf270713PEN-W #1203XXが来ていますね。茶色のハードケースはPEN用のものですかね。当時、我が家で使っていたPEN-EEDもハートーケース入りでしたが、ホックのベロ部分が、折り曲げのところから切れてしまうのですね。現存のケースはあまり使わない方が良い気もしますがね。実用とする場合は、革に保革油を良く浸透させておかれた方が良いでしょう。

で、このPEN-Wは外観のビスは開けられた形跡がありませんので、多分、未分解機だと思いますが、果たしてどうでしょうね。外観の程度は普通ですが、レンズは曇りと黄変があって、シャッターは2回に1回チャージせず。シャッター羽根の開閉も非常に眠い。シャッターが切れる時の音がちょっと気になります。何ともないと良いのですが・・ファインダーも曇りが進んでいますね。では、分解してみましょうかね。

Dscf2708551 やはり未分解の個体でしたね。駒数ガラスは少しクラックがあって、オーナーさんのご希望で交換するために、すでに剥離してあります。じつは、PEN-Wの場合は塗装面に接着されているため、接着が強くて剥離は非常に困難なのであまりやりたくないです。PEN-Sなどクロームの金属面へはエポキシ接着剤の性能か、ショックで容易に剥がすことができますね。で、吊環ですが、落下により陥没しています。しかし、よくよく観察すると部分の塗装がすでに剥離しています。どうするかなぁ? 治すとストレスが掛かりますので塗膜が剥離する可能性が高いのです。

Dscf271066やはり吊環を分離してへこみを治しておきました。駒数ガラスはすでに接着をしてあります。シャッターは全くダメな状態ですね。この個体のオーナーさんからもご依頼前にどこまで作業をするのか?とお問合せを頂いていましたが、「どこまで」と改めてたずねられると即答ができない。丸々1台最初から組みなおしているのです。ですから、「どこまで」と聞かれると「全部です」とお答えするしかしょうがありませんね。

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この個体はオブジェとして飾っておかれたそうですね。未分解機で、メカ的には消耗は少ないですが、使われていなかった(現役でない)ことから来る劣化がシャッターやレンズ及びシャッター(シボリ)リングの腐食などに見受けられました。レンズの前玉のバルサム劣化により、曇りが出ていますが、撮影できないほどではありません。できればフードを装着して撮影していただければと思います。巻上げも軽くスムーズで調子は良好となっています。

明日(19日)はペンスケッチ展7を拝見するため、都内渋谷まで出かけて参ります。ご自身のPENをお持ち頂ければ拝見させて頂きます。


次もPEN-D3だが・・

2011年06月16日 00時13分04秒 | インポート

Dscf2700521 次もD3なんですがね。#2575XXと、1台目よりちょっと前の製造ですが、まぁ、似たような頃です。しかし、決定的に違うのは保管状態です。このカメラは女性からの修理ご依頼で、祖父様の形見だそうです。何とか治して差し上げようと思いますが、かなり手遅れの感が強いです。巻き戻しダイヤル部はゴム系接着剤を盛られていますね。シャフトのネジ山と留めネジがネジバカになっていて、それで接着剤でということで、先が思いやられます。

Dscf270276 D2、D3の場合、状態を悪くしているのは電池を入れたままにして液漏れにより腐食が周辺に進んでいることです。これはひどいなぁ。電池室の留めビスは腐食のため完全に固着しています。経験的に、これを緩めようとすれば100%ネジを折ってしまいます。また、スプロケットとスプロケット軸も腐食のため固着しており、スプロケットクラッチは軸から抜けて来ません。スプロケットも破損しています。クラッチが押し込まれた状態で回転したため割れてしまったのでしょう。良品のスプロケットが不足している中、交換をしなくてはなりません。

Dscf270388 レンズもご覧のような状態で、見事にカビの花が咲いていますね。多分、カメラを良く知っている方でしたら、修理を考えなかったかもしれません。まぁ、ご依頼の方の思いがありますから、何とかしたいと思いますが・・(うちのD3と交換して差し上げたんじゃダメなんですよね。やっぱり)

Dscf270464 シャッターを分解して洗浄します。超音波洗浄器も使用しますが、細かな部分は意外にきれいには洗浄できない場合がありますから、腕時計と同じようにシャーレで刷け洗いもします。

Dscf270544 スプロケット関係は良品と交換の上組立てています。電池室の液漏れのため腐食しているリード線を新設しておきます。

Dscf270628 はしょって完成です。全ては入れたままになっていた電池が問題の元凶です。巻き戻し軸とビスはねじ山が破壊されており、再使用は不可のため良品と交換して組立てています。何とか形見のD3が復活しましたね。同じ家族内で世代を受け継がれて良かったです。大切にしてくださいね。