今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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お父様の形見のセイコー十型

2011年12月13日 23時29分21秒 | インポート

Dscf312346 三光PENのレストアと共にダンボールに入って来たのは大変古いセイコーの十型時計でした。あるホームページでは、同型に見える時計が大正末~昭和10年頃と解説されています。セイコーの十型はいろいろなバリエーションがあって、私も色々手に入れるのですが、機械が同じものに出会うことが少なく、奥の深いシリーズだと思います。当時としては珍しいステンレスケース入りで、風防はガラス製です。お父様が色々な時計屋さんに持ち込んでも治せなかったというお話しです。現状はまったく不動で、リューズの巻上げも変です。

Dscf311499 一度は修理断念としましたが、オーナーさんから分解して見て欲しい。とのご希望ですので、分解をして見ることにします。裏蓋を開けて点検すると、あぁ、これはひどいですね。テンプのひげゼンマイがクチャクチャになっています。どこの時計屋さんに持ち込んだのでしょうね? プロの時計師としては有り得ない状態です。まったく時計の知識がない方が分解してあきらめ、適当に押し込んだという感じです。

Dscf311577 この時計は受け石(ルビー)が使われていませんね。そのため、トルクの掛かる二番車のホゾ孔が拡大してガタガタです。長期に、潤滑がない状態で使われたのでしょう。

Dscf312476 すべて分解したところ。この頃の文字盤はホーローなので割れているものが多いですが、この個体は無傷です。ピンセット先のテンプの受けは別部品でルビーが使われています。ただし、留めビス孔がネジ馬鹿です。

Dscf312512 香箱のゼンマイは比較的良い状態でしたが、グリスが全くない状態。洗浄とグリス塗布をして組み込んでいます。その他、輪列を組み込んでブリッジをセットしたところ。ザラ回しは何とか動きます。ゼンマイを巻くと、ガンギ車には、ちょっと心もとないですがトルクは来ています。それではアンクルをセットしてみます。

Dscf312754 丸穴車と角穴車を取り付けて、日の裏側も完成させています。問題はテンプのひげゼンマイですが、かなり長時間、修正を試みましたが、ちょっと無理ですね。

Dscf312846 そこで、私の所有している同型の機械から、テンプを移植してテストをして見ました。おっと、ヨタヨタと動き始めましたね。何十年ぶりに生き返ったのでしょう? 但し、磨耗により、各部のフリクションが大きく、姿勢差によって止まりそうにもなります。しばらくエージングで軽くなるかも知れませんが、残念ながら、実用は難しいと思います。まぁ、うちのお客さんの大切な時計ですから、出来るだけのことはさせて頂きました。