今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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帰国子女の三光PENフィート機

2011年12月20日 18時47分30秒 | インポート

Dscf314151 先日のセイコー十型と一緒に来た輸出向けフィート表示の三光PEN。部品取り機が多数付いていますが三光PENの状態はあまり良好ではなく、さりとて、なるべく製造時期の異なる部品は使いたくない。まぁ、そうも言ってられませんので、少し考えて見ましょう。同時に古いスモールセコンドのジャンクが多数入っておりまして、当方にプレゼントをして頂けるとのことです。目に留まった一つ。WEALTHのEXTRAとなっています。裏蓋を開けてみるとスイス製の時計のようです。不動の状態でしたが、点検をすると、ガンギ車が固着して動かない状態。応急的に動かして見ましょうか。テンプ、アンクル、ガンギ車を分解してみると輪列は固着は無い状態でしたので、この部分だけ洗浄、組み直しをして見ました。しかし、アンクルの受けとテンプの受けの精度が悪く、一部ヤスリで削られたりしており、そのままビスを締め込むとアガキが無くなって止まってしまいます。現在は、ビスを緩めてアガキを確保して作動状態としてあります。テンプが回っているのが見えますでしょうか?

Dscf314246 しかし、ケースの裏蓋を見ると1175の刻印と鶴のマークが入っていますね。それはセイコーのケースのような気もしますけど、詳しくは分かりません。どちらにしても、この頃の地板と受けの精度は悪く、実用とするためには相当な調整が必要だと思います。途中でテンプを交換されている可能性がありますね。片振りなども全く調整が外れているようです。

Dscf314752 う~ん、未だレストア方針について思案中です。部品取り機は多数付いて来ていますので、状態を良くすることだけを考えればそれは可能ですが、出来るだけオリジナル性も考慮したい。画像の三光本体を塗装することも考えましたが、費用とオリジナル性がネックとなる。最終的には、ご覧のような塗装の状態ですが、これはこれで、そのまま使用してシボ革のみを交換する案を採用しようかなと思っています。シボ革は、過去の修理時に剥離をされて粉々となっておりましたが、三光PENのシボ革は弱いということを知らなかったのでしょうね。海外のリペアマンでは、それだけの細かな神経も使わないのでしょう。そもそも、シャッターユニットを分離するためにシボ革を剥離する必要などないのです。

Dscf314877 取りあえずシャッターユニットのオーバーホールをしておきます。北米(かな?)にあった個体ですから、湿気によるダメージは少なく、シャッター羽根やレンズなどの状態も意外に良好なんですね。国内ものでは考えられません。特に消耗も不具合もありませんが、後ろのハウジングを留めるビス3本のうち、2本は脱落していました。この頃はネジロックが施されていないからです。組み込み式のスローガバナーは洗浄して組み込んでおきます。

Dscf314615 で、応急で動かしておいた時計ですが、あら、意外に止まらず動いていますよ。この頃のジャンク機は、仮に作動をさせても、まず夜明けは迎えられずに止まっているのが常です。スイス製はやはり優秀なんですかね。戦後すぐは、外貨の問題で腕時計の輸入が規制されていた頃で、中身の機械だけ密輸入をして、国内でケースに収めて販売された時計が多くあったようですから、その辺りの事情ものかも知れません。戦後の復興期は、中古の時計でも貴重で、時計屋さんのウィンドウに並べると、飛ぶように売れたようです。まだまだ、国産時計の信頼性は低く、舶来時計は高嶺の花だったのでしょうね。よくよく見れば、受け板にはコートドジュネーブ装飾が施されていますね。時間がある時にまじめに組んでみます。角穴車のネジが固着していますので556を浸透させてありますので、それの効果が出て来た頃に・・平行でレストアしているキングセイコーの新品針とモレラートの皮バンドを手配しました。楽天で今ならポイント5倍だったので。新品の風防ガラスはすでに入手していますので、暮れはKSを完成させるつもりです。

Dscf314911 さて、本題に戻って。オーナーさんとの打ち合わせで、塗装をするしないと二転三転しまして、結論は塗装せずにそのまま仕上げるということになったのですが・・シボ革を剥離してみるとね。レンズの状態があれほど良かったのに、ダイカストの塗装劣化が激しいですね。アルコールで拭き上げでいくと溶けてなくなってしまいます。そんな焼付塗装ないですよ。おまけにダイカストが腐食して粉になって落ちます。毛唐の汗は強すぎだね。しばし考えましたが、この状態でシボ革を貼ることも出来ませんので、今回は三光PENの個体数維持のためにサービスで塗ることにします。(数台のジャンク機もご提供頂いていますので)しかし、色合わせは適当ですよ。あくまでも母材の保護が目的です。

Dscf315155ダイカスト本体は劣化した塗料を剥離しましたが、腐食も進んでおり、表面は研磨してあります。トップカバーは洗浄済みです。摩滅もあると思われますが、梨地は細かくピカピカに光っています。駒数ガラスは新品を接着します。問題は樹脂のファインダーブロックです。この個体のオリジナルは落下により割れて欠損部分がありますので、片耳PENから調達しました。しかし、こちらの部品も、樹脂の劣化により表面が白く変色しており、一皮剥いて研磨をしましたが、樹脂の種類は不明ですが、すでに全体の材質に劣化が起きているようで、新しい樹脂のように平滑面に光ってくれません。この程度で妥協ということで・・

Dscf315054 今日の日中は寒かったですね。塗装をしていましたので暖房無しで過ごしていました。ダイカスト本体の塗装をしましたよ。時間を掛けた精密な調色は一切していません。勘で色を作ったそのままで塗りました。ちょっと青味が強かったです。まぁ、母材保護が目的ですのでご了解です。オーバーホールを終えていたシャッターユニットを組み込みました。左側のカバーは、海外でシボ革を乱暴に剥離されたためにキズだらけですね。私が剥離すると右側のようになります。

Dscf315275最近、三光PENのレストアが多く入って来ますが、初期の巻上げダイヤルカバーが痛んでいたり、欠落しているものが多くなっています。この個体も欠落していました。初期の熱カシメタイプは貴重となっており、レストアのネックとなっていますので、今回は、過去に複製した部品を塗装をして使用してあります。熱カシメタイプは、以後のタイプとは微妙に形状が異なるのですね。三光PENの場合は、その辺も拘りたいのです。今後は、グレーの純正色で製作をする予定です。

Dscf315335 シボ革を貼りました。片耳だけど三光ではない個体からの調達ですが、すでに材質は変化しています。洗浄したこともありますが、オリジナル裏蓋よりも明るいグレーになっています。本来は、三光PENの頃もこの程度の明るさであったと推測しますが、材質の劣化が進んだために、黄ばみが強くなっているのが現状だと思います。距離リングは実用を考慮して、m表示のものをセットしておきます。前面のFlash表示はftですので、里帰り機の距離リング付け替えと分かりますけど。

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細かなパーツも汚れや腐食のままで組み込むのは気分がよろしくないので、丁寧に磨きます。駒数ノブのローレット谷部分に汚れが詰まっていますので、時計の修理では定番のファイバーペンで磨きます。ニッケルメッキを傷めず、光沢を甦らせることが出来ます。

Dscf315620_2 すでに分解を受けている個体は、ネジのスリ割りが痛んでいるものが多いですが、そのまま再使用はしたくないので、定盤でスリ割りを1本づつ修正をしてから使うようにしています。

Dscf3160841 いろいろ問題があった個体ですが、何とか完成にこぎ着けましたね。レストアの手は入れましたが、この個体の戸籍は守るように心がけましたので、いわゆる、ニコイチ、サンコイチのような幽霊カメラにはなっていません。三光PENとしての整合性はすべて持っている個体に仕上がっています。調子も非常に良くて性能は完全に復活しています。

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オーナーさんは、旧車の愛好ファンでもおありで、ご自身でも車のメンテナンスをされている方ですから、ごまかしの作業は通用しません。さて、どのような評価を頂けるでしょうか。輸出仕様でフィート機とされて海外に渡った個体が、数奇な運命を経て里帰りを果し、「車籍復活」です。愛娘さんもフジカミニを愛用とのことで、頼もしいかぎりですね。

http://www6.ocn.ne.jp/~tomys800/