今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

念願叶った三光PEN

2011年12月06日 11時43分56秒 | インポート

Dscf308762 その前にちょっと時計を分解しています。私が現在愛用しているラドーゴールデンホース。セイコー5に比べて、若干小ぶりで重量も軽く、丸っこいデザインなので、腕につけた時の感触がしっくり来るのでお気に入りです。しかし、腕から外すと一晩で止まるようになりまして、油切れとこの時は思ってオーバーホールを始めたのでした。さすがにスイスETAのムーブメントは金メッキできれいですね。地板にはベルラージュ装飾も施されていてセイコー5とは違うわい。しかし、この時はのガンギ車に問題があることに気が付いていないのでした。

Dscf308826まだ日の裏側(文字盤側)は分解していません。機械時計の動力はゼンマイですが、この香箱車の中に巻き込まれていて、これが解ける力で香箱本体が回転して動力を発生させています。蓋を開けてみると、油分はなくてカラカラの状態です。新しい素材のゼンマイの場合、給油の必要がないものもありますが、私は洗浄の上、ゼンマイ専用グリスを塗布することにします。

Dscf308945 オーバーホールをした香箱車を組み込みました。ピンセット先の歯車は二番車と言って、ゼンマイの動力を直接受けることから強い力が掛かります。幸い、この個体は歯の部分の磨耗も少なく、状態は良いと思います。

Dscf309061 輪列を組み込んで行って「ハタ」と気がつきました。ピンセット先のガンギ車は時計の「チッチッチッ」というスピードを制御している重要な部品です。カメラのスローガバナーやセルフタイマーにも同じ構造の部品が組み込まれています。で、ガンギ車をセットしようと思ってもホゾ穴に収まらない。観察するとホゾが折れていました。この辺が、高価な実態顕微鏡など持たない老眼のきびしいところです。部品商さんにお調べいただいたところ、スイス本国には在庫はあるとのことですが、入手に1ヵ月掛かるとのことでした。さゃ、どうしたものか? 都合よくジャンクなどが見つかれば良いのですが・・・

Dscf309124 で、本題です。念願の三光PENを入手されたとのことでおめでとうございます。何とか良い状態でお使いになられたいとのことで、それでは頑張りますけど、あまり良い状態ではありませんね。オーナーさんも底部のへこみが気になっていらっしゃるようですが、ピントリングのローレット部分の剥離をタッチアップしたりしています。過去に修復の手が入っている個体ですのでどうなっているでしょうか?

Dscf309389 トップカバーを開けてみます。ファインダーの保護カガラスの接着が外れて脱落していますが、意外にオリジナルの状態を維持しているようです。三光の頃は、巻上げダイヤルの止め方が以後と異なりますが、この個体#1061XXは中央のビスはまだ正ネジです。駒数針は金色ですが、カニ目ネジはすでに左ネジに変更されています。(極初期は正ネジ)

Dscf309411 レリーズボタンのシャフトとホルダー(真鍮)が固着して動きません。セルフタイマーやレリーズが使えない状態。

Dscf309771

ファインダーカバーを剥がしてみると、ミラーが脱落しています。この個体は、ボディーの塗装もダイカスト腐食により浮き気味ですので、湿気の多いところに置かれていたと思われるので、接着も弱くなっているのでしょう。ファインダーブロックの留めビス部分は欠けているところがあります。

Dscf309629 シャッター取り付けのベースプレートの留めビス4本のうち、1本が真鍮製になっていますね。しかもネジばかです。引き抜いてみると、正規よりも短いものを締め込んだためにねじ山が持たなかったのです。こういうのを見るに付け、私は、どうして皆さんちゃんとした修理をしないのだろうと不思議になります。いい加減に作業をするような神経なら、最初から手を出さないことです。まぁ、その前に、通常は外す必要のないビスがどうして規格外のものに変えられなければならなかったのか?はミステリーがあります。まさか、元々、三光商事の作業ではないと思うのですがね。でも三光は絶対の信用は出来ないかなぁ・・・。

Dscf309877 問題は巻上げダイヤルのカバーです。三光の頃は、ネジ留めではなくて、横に2本の腕を出して、それを本体側の受け孔に差し込んでから熱カシメで留める構造。しかし、その腕が折れてしまって、ゴテゴテに接着剤で留められています。画像をご覧ください。これでもきれいに写っているのですが、モルトかすが一緒に接着されて盛り上がっています。

Dscf309955 ダイカスト本体の受け孔に折れ残った樹脂をポンチで押し出してあります。ダイヤルカバーですが、あいにく在庫がありませんので、接着カスを清掃した後、真鍮パイプにて腕を作っておきました。プラ棒では強度が持ちません。左の白い部品は、私のところでリプロした部品です。今回はグレーのモールドが無いので使用しませんでした。

Dscf310055 それでは、シャッターユニット本体を見ます。あっ、そうだった。純正フィルターが外れないとのことでした。ピントリングがしょっぱいですね。前縁部分のローレットのアルマイト剥離を黒塗料でタッチアップしていますね。ローレットの谷部分に入った酸化粉をそのまま塗ってあるのでゴテゴテです。彫刻文字が汚れているように見えますね。この頃は彫刻文字の線幅が細いので彫刻のみで白の色入れはされていません。よって、長い間に彫刻した部分が腐食して塗料が入っているように見えるのです。

Dscf310199 フィルターは分離しました。組立状態で無理にシボリリングを回すとシボリ値がずれてしまいます。レンズの後玉のコーティングは曇っていますね。

Dscf310257 距離リングですが、まず、ローレット部分の塗料を剥離します。その後、ローレットの谷部分のアルミ酸化粉を削り取っておきます。彫刻文字は彫り直してあります。

Dscf310343 シャッターユニットは羽根に多少の錆が発生していますが、まぁ、いいでしょう。オーバーホールを終えて、特に問題はなく本体に組み込んでいます。

Dscf310415 ファインダーは各ミラーが脱落していましたが、問題は、ハーフミラーのメッキが劣化して使用出来ない状態ですので、オリジナルと同じ金コートのハーフミラーから製作して接着してあります。

Dscf3105511 完成したファインダーブロックをトップカバーに取り付けました。対物レンズは樹脂製ですが、すでに乱暴に拭き上げをされており、キズが多いです。底部に遮光紙を貼っておきます。で、気になってはいたのですが、この個体は、寄せ集めかなぁ?という気もしますね。#1061XXと製造初期にしてはファインダーのカバーが金属製ですね。初期は遮光紙だと思います。その他、スプール軸の駒数ネジが左ネジなのも疑問。スプールは樹脂が割れるものが多いので、スプール軸共、セットで交換されている可能性があります。駒数ガラスにクラックがありますが、オーナーさんに確認をしていませんので交換はせず研磨に留めておきます。

Dscf3106641 樹脂のファインダーは表面の材質が劣化していますので、軽く研磨をしてあります。オーナーさんは実用を目指しており、部品取りが付いて来ていますので、後玉は交換しています。当初は距離リングは塗装で修復する予定でしたが、こちらも部品取りのものを使用しました。裏蓋底部のへこみは修正をしましたが歪みは残っています。(画像では消えていますが)出来るだけオリジナルに忠実に修復したいのは山々ですが、私の手元に来た時点で、すでに部品交換を受けている個体が目立つようになって来ました。当時の交換部品などあるわけもなく、現役として維持するためには後期の部品を使用しての修復も止む終えないところに来ています。三光PENに就いては、細かな変更があって研究の対象でもありますが、個々の個体を見ただけでは正確なことは分からなくなっているのが現状です。そのため、各個体の特徴を記録していますので、試料数が多くなれば、正確に仕様を推測できるのではと思っています。

http://www6.ocn.ne.jp/~tomys800/