明日に向けて

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明日に向けて(1776)新型コロナウイルス感染拡大を抑制し「医療対応の限界」を越えさせずに危機を乗り越えよう!

2020年03月10日 13時00分00秒 | 明日に向けて(1701~1900)

守田です。(20200310 13:00)

初めは甘かった政府の認識

新型コロナウイルスに関する続報です。この問題に対し議論が錯綜している面があるので、整理のために時系列に沿って振り返ってみました。

この病は12月8日に中国で発見され、武漢市を中心に感染が拡大。医療崩壊が始まる中、政府が1月23日に武漢市を封鎖、全国から医療者を派遣し治めようとしました。
このとき厚生労働省はこう国民に呼びかけました。
「国民の皆様におかれましては、過剰に心配することなく、マスクの着用や手洗いの徹底などの通常の感染症対策に努めていただくようお願いいたします」
中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について 
令和2年1月23日版
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09065.html

これらを通じて「新型コロナウイルスは季節性のインフルエンザと同じようなもの」という認識が広がりました。首相官邸も「過剰に心配することなく」という厚労省の医師たちの言葉に安心してしまい、武漢からの渡航に警戒しただけで、中国が1月27日より

自国民の海外旅行を禁止するまで観光客もほとんど制限しませんでした。
1月30日に「対策本部」を立ちあげ、3月7日まで18回会合を開いたものの毎回10分か15分。小泉環境相など、大臣が次々欠席するなどやる気がないのは明らかでした。
こんな中で、2月3日からのダイヤモンド・プリンセス号への関わりも認識が甘く、感染者の拡大を防げず、10日135人、17日454人、26日705人と増やしてしまいました。

ただ2月の中旬ぐらいのまでは政府だけでなくマスコミの多くも危機の本質を捉えることができなかったのではないか。申し訳ないですが僕自身もそうでした。この頃はまだ何が危機かよく分かっていませんでした。


武昌病院の劉智明院長(51歳)の死去を報じるANN 2月18日


政府が認識を変えだしたけれど・・・

その後、政府のトーンも変わりはじめました。10日にイベントでの注意を勧告。17日に風邪気味の症状がある方はすぐに来院せずに4日目以降に・・・という受診の仕方の目安が出されました。さらに2月20日により強いイベントの自粛要請が打ちだされました。

認識の変化がはっきりと印象付けられたのは2月24日に「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が見解を表明し、感染を防ぐために「今後1~2週間が瀬戸際」として以下の点を提言したことによってでした。
「感染が急速に拡大しかねない」「全ての人に新型コロナウイルスの検査をすることは有効ではない」「風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には自宅で療養を」「すぐに医療機関を受診しないで」「感染拡大のスピードを抑制し重症者の発生と死亡を減らす」

26日には安倍首相によって自粛要請のトーンが強められ、27日に小中高の休校要請も出されました。しかしあまりに唐突で、しかも専門家会議への諮問も経ていなかったことで大混乱がおきるばかりでした。

このとき僕も「この要請はあんまりなのではないか」と指摘しました。この頃、明らかになっていたのは「この病は8割は軽症や無症状ですむ、若年層で重篤化することはまれ、リスクが高いのは高齢者と既往症のある方」という点だったからです。
安倍首相は「子どもを守る」としか言わなかったので「これでは誤解が広まる」と危機感を持ち、「明日に向けて(1774)」の記事を書きました。

このウイルスについての僕の基本認識はこのときと今も変わりません。この点は社会的にも大きく共有されています。3月7日付の東京新聞でも専門家会議に参加している日本感染症学会理事長の舘田一博・東邦大教授の次の言葉が紹介されています。
「(この病は)季節性インフルエンザと同等か、少し強いぐらいだろう。ただ、高齢者で肺炎の合併症が高いことには注意しなければならない」。

ただそれではなぜ学校を休みにしたり、イベントを自粛したりする必要があるのか、多くの人々にはよく見えにくい。その後僕は、恐れるべきはアウトブレイクに伴う医療崩壊だと気が付きましたが、この点が政府からいまもきちんと説明されてない。多くの人の議論が錯綜しているのはこのためです。

専門家会議の提言 2月24日


目的は感染拡大を止めることではなくスピードを遅らせ「医療対応の限界」を越えないようにすること

この点で極めて象徴的な二つの図を紹介します。専門家会議が出したものですが、1枚はNHKでの解説で使われ、1枚は厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」に載せられています。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q1

NHKで使われたものは2月24日ニュース7で報道され、専門家会議の尾身茂副座長の解説動画の中で示されました。


急激に感染が拡大する山と緩やかな山が示され、「感染拡大のスピードを抑制すること」が目的とされていますが、これだけではなぜスピードを遅らせなければならないのかが十分に見えてこない。NHKは大事な点を省いてしまっていました。

厚労省のHPに載ったものには重要な書き込みがあります。山を横切っている点線で「医療対応の限界(例:病床数)」と書いてあります。

一つ目の山はこれを突破してしまっていますが目指すべき二つ目は少し上回るにすぎない。「医療対応の限界」を越えないことが核心なのです。

点線は上に押しあげて「体制強化」にいたることが目指されています。感染症病床を増やし、ワクチンを開発することですが、ここまでの時間稼ぎが必要なのです。
新型コロナウイルスは、感染した軽症者・無症状者が無自覚に出歩き、発症前から感染させてしまうので防ぐのが難しい。だから一気に患者が増え「医療対応の限界」を越える可能性があるのです。

さらに指摘したいのは、長年の経費削減の中で感染症対策費が削られ、力がそれほど高くないこと。病床も少ないことです。東京都124床、全国1758床しかない。それがクルーズ船対応でも多数使われている。
感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)―厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html

政府は病床を5千まで増やし、一般の病院にも「指定感染病」患者を受け入れてよいと通知しましたが、感染症対策がなされていないと院内感染が起こってしうのでそう簡単には増やせない。


みんなで医療を支えて新型コロナウイルスの試練を乗り越えよう!

医療費削減策によって日本の感染症対策は強くない。しかし医療全体は切り縮められてはきているものの、まだ世界のトップクラスです。
感染症病床は少なくても、病床全体としては1月末の武漢(1108万人)が病床1万床だったことに対し、人口が少し多い東京都(1394万人)は、高度急性期病23563床、急性期病院46372床があり、回復・慢性期病院も持っています。(感染症病床は124床)
その上、日本の医療は水準が高く、かかりやすく、安い。平等に同じ医療が受けられます。

多くの国と比較すると日本は医療天国です。救急車がやってくる速さも世界トップクラス。しかも多くの国が有料なのに日本は無料。ただしこの良好な医療を保つために、医療者たちの過労状態も世界トップクラスなのが日本の医療の現状です。
今も約60人の重篤な方に人工呼吸など高度医療を施して救命してくれている。素晴らしい。諸外国と比べても多くの救命に成功している。何としても守るべきはこの体制です。
東京都における医療機能ごとの病床の状況(許可病床)―東京都福祉保健局(2017年) http://www.byosho.metro.tokyo.jp/2017/index.html

専門家会議が「心配だからとすぐに医療機関にこないでください」「全ての人に新型コロナウイルスの検査をすることは有効ではありません」と語ったのももっぱらこのため。ところが政府が説明しないまま安倍政権への不信が重なって「なんで検査をどんどんやらないんだ」という怒りの声も高まっています。
もちろん医師が必要と判断しても検査が受けられなかった当初の混乱はただす必要がありました。保険適用によって保健所を介さず医師の要求で検査ができるようになったのは進歩です。

しかしこの病は「指定伝染病」なので陽性となったら軽症でも14日間も隔離しなくてはならない。すると感染症病床が少ないのですぐ埋まってしまうのです。一般病院で感染症病床を増やそうにもまだ時間がかかる。だから感染が急激に拡大し、患者が一気に増える事態を防がなくてはいけないのです。

いかがでしょうか。守るべきものが見えたでしょうか。
みんなで頑張っていきましょう!

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