TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」77

2018年06月12日 | 物語「約束の夜」

山を下り終え、
村の中心へ向かう広い道に出る。

「んん~、
 数日ぶりの地元~」

京子は伸びをする。
やらなくてはいけない事は多いが
なんだかとても安心する。

「肉汁たっぷりのハンバーグとか食べたい。
 中にチーズも詰まっていて、
 ゴテゴテの濃い味ソースが掛かってるの。
 あとマッシュポテトに、
 単純にフライドチキンでも」

お肉、食べたい。

「……ごってりしそう」
「だって
 みんなお肉大好きでしょう!!」
「俺は、冷しゃぶをポン酢とかでよいわ」
「なんですって!?」

同じ肉でもベクトルが違う。

「……千さん。本当に西一族なの?」

京子の一族判断基準とは。

「人はある一定の年齢を超えると
 油物の消化に時間がかかるようになるんだ」
「またまた~」
「意外と徹夜とか出来なくなる」
「えぇ、嘘ぉ」
「筋肉痛が時差で来るようになり、
 これっていつの筋肉痛?と
 恐怖に怯える日々が」
「千さんっていくつなの?」

「秘密」

ふ、と笑って
千は人差し指を口元にもっていく。
それから、京子の頭を撫でる。

「それじゃあ、俺はここまで」

千は立ち止まる。

「え?」
「あいにく今回は
 村に用事が無いからな」
「………つまり」

ついでではない。
わざわざ京子を村まで送り届けてくれたのだ。
悪いことをしてしまった。

「お礼にお茶でも」
「いいよ。次の用事もあるから」
「ご、ごめんなさい」
「違う違う」
「?……ありがとう、ございます?」
「そう」

京子はぺこりと頭を下げる。
千は手を振りながら山の方へと踵を返す。

「じゃあな、京子。
 大事な体なんだ。危ないことはするなよ」

姿が見えなくなったのを確認して
京子も自宅へと歩み始める。

なんだか。

「ちょっと、お兄ちゃんみたいだったな」

ふ、と笑みがこぼれる。

千は来た道を引き返す。
京子と下っていた時とは違う。

歩いているようで、
走るようなペースで
息も切らさず、山を登っていく。

獲物は別に狙っていた訳では無いから
そのままでも良いのだが、

「お帰り、血抜きはして置いたけど。
 運ぶように指示も出してる」

1人の青年が彼を出迎える。
イノシシは彼の手で下処理を入れられている。

「あぁ。チドリ、来てたのか」

千はちょうど良い、と
彼を呼ぶ。

「お前治癒術使えたよな」
「そうだけど」

千は掌を見せる。

軽いやけどのような跡が
両手に残っている。

「どうしたの?
 怪我とかめずらしい」
「多分、加護の魔法だ」
「だろうね」
「センに怪我させるとか、相当の使い手?」
「いや、ちょっと
 女の子の手を握っただけ」
「???」

まったく、と
青年は杖を降り、呪文を唱える。

千の手元が淡く光ったかと思うと
何も無かったかのように
やけどの跡が消えている。

「うろちょろするのは
 暫く控えて欲しいな」

ため息をついた青年に
分かってると千は答える。

「さて、俺もそろそろ帰るとするか」




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