「ああ、ほら」
ぶつぶつと、満樹は呟く。
「思った通り・・・。体験だから付き添いがいる」
東一族の村。
正式な入口の方に戻って、満樹はその様子を見る。
幼い水樹と、もうひとりの門番当番。
ちょっと緊張の面持ちで、水樹は立っている。
ちゃんと、門番をやっているようだ。
物陰で、満樹はうんうんと頷く。
「・・・よし!!」
「何が?」
「っうう!?」
背後からの突然の声に、満樹は驚く。
が、精一杯声を抑えた。
「兄さん、戻っていたの?」
「はる、こっ!」
「はい?」
云いながら、晴子も物陰から水樹の様子を見る。
「よし、やっているわね!」
「様子を見にきたのか?」
「もちろん。弟ですもの」
「・・・そうか」
「ほら。水樹って、ちょっとはっちゃけてるし」
「・・・・・・」
「門番体験とは云え、心配で」
「お前の兄も、そう云っていたぞ」
「兄さんはここで何を?」
「えっと」
「もしかして、水樹の心配を?」
「いや、うん。まあ」
「あらあら」
晴子は、うふふと笑う。
「兄さんはひとりっこだから、弟が羨ましいのね?」
「そうじゃなく、」
「残念ながら、水樹はあげられないのよ」
「えぇえ??」
「ごちそうさま、よね~」
「えっ、どう云う意味?」
満樹は、晴子に微笑ましく見られる。
いや。違う。
違う、けど、
本当は、お前の兄に脅されたんだよ、とは、・・・云えない。
「じゃあ、水樹もちゃんとやっているし、俺行くから」
「ふふ、ありがとう」
あ、そうだ。
と、晴子は持っていたものを見せる。
「見て、これ! 果物を砂糖漬けしたの」
「えーっと。これは、晩柑?」
「そう。晩柑」
ミカン科ミカン属
ブンタン類に属する、標準和名「河内晩柑(かわちばんかん)」
「あ、これは、天草晩柑ね」
晴子は、砂糖漬けのそれを、3袋持っている。
「誰が作ったのがおいしいか、食べ比べしたのよ~」
晴子の女子トークが炸裂しだす。
「私と、杏子と篤子の3人で、ね!」
「・・・へえ」
「やっぱり一番上手なのは篤子姉さんのかなぁ」
満樹は一応頷く。
「水樹を心配してくれたお礼に分けてあげるわ!」
「えっ」
「ちょっと待ってて! 今、瓶に入れ直してくるから!」
晴子はくるりと、向きを変える。
「ちょっ、晴子! ちょっ!!」
満樹は、小声でそれを制止する。
「大丈夫。俺は大丈夫」
「え? 甘いものは苦手なの、満樹兄さん?」
晴子が女子フェイスで、うるるっとなる。
「違う! 違う、けどっ、大丈夫!」
「いいのよ、遠慮はしないで!」
「いや。俺より渡す相手がいるだろう!」
満樹は、とにかくてきぱきと指示を出す。
そうそう。
自分は大将のもとに、報告に行きたいのだ。
「杏子が作ったものは成院。篤子が作ったものは大樹」
そして
「晴子が作ったものは戒院、だ」
「まあ!」
晴子は首を傾げる。
「杏子が作ったものは、光の兄さんではなく?」
そっちかー!!
正直、どっちでもいい。
「うん、じゃあ。そうしよう!」
「そうね、そうするわ!」
「いや、でも、成院にもちょっと分けておけよ」
「はぁい」
うふふと、晴子は駆けだす。
「何だか、ごめんなさい。満樹兄さん!」
大丈夫。
お気遣いなく!!
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