TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」167

2016年12月13日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は作業場を出て、帰路に就く。
帰りに少し遠回りをして
村の中心部にある広場に足を伸ばす。

定期的に行われる狩りの成果は
村人に平等に分けられる。

圭がそこに顔を出すのは
いつも少し時間をずらしてから。

「すみません、うちの分を」

「ああ、圭、良かった。
 遅いから来ないんじゃないかと思ってた」

透が手を上げる。

「今日は透が当番なのか?」
「そう。
 一番大物を仕留めたんだぞ」
「すごいな、透は」

まぁな、と
透は肉が入った袋を渡す。

「圭の家の分だ」

「……透。貰いすぎだ」

圭は小さく呟く。
それぞれに渡される袋とは別に
小さな袋も付けられている。

「それは俺が仕留めた分。
 だから、振り分けは
 俺の自由だろう」

獲物を仕留めた本人は、
振り分けとは別に
肉を貰えることになって居る。

「その部位は美味しいんだ。
 折角だから食べてみてくれよ」

圭はこれから
頑張って稼がないといけないからな、と
冗談めいて透が言う。

「ありがとう」

圭は素直に受け取り、家へと向かう。

杏子は肉を苦手としているが
スープぐらいならどうだろうか。
折角透から貰った物だ。

今度、出来上がった細工物を
透に持っていこうか、
そう、考えながら歩く。

「おい」

声を掛けられ振り返る。
圭は村人全員の顔を覚えている訳では無いが
同じ年頃の若者が数人。

格好からして、
今日の狩りに出ていた者達だろう。

「役立たずが、
 随分良い部位を貰ってるじゃないか」
「少しは遠慮したらどうだ。
 狩りに行けないくせに
 貰える物は貰おうってか?」

これは透が好意でくれた物。
彼らには何の関係もない。

ただ、

言うことはもっともだと圭は思う。
狩りは命がけだ。

そうした瞬間に圭の腕から
袋が取り上げられる。
 
「あ」

はずみで中身が袋から飛び出し
肉は地面に落ちる。

彼らは、それからも
圭に言葉を投げ続ける。

 こいつ、山に置いてこようか。
 狩りの後は獣たちも身を潜めるから大丈夫だろう。
 むしろ山一族がくるかもしれない。

彼らは、別に肉が欲しい訳じゃない。
ただ、役立たずの圭が腹立たしいのだろう。
昔から言われ続けていた事。
今さら彼らの言葉に
どうと言うことはない。

でも。

「おい、何をしている」

偶然通りかかったのか
年上の悟が間に入ってくる。

「悟さん、だって、こいつ」

状況を判断したのか、
悟は語気を強めて言う。

「狩りに参加したのはお前達だけじゃないだろう。
 皆の成果を足蹴にするつもりか」

悟と青年達が
何か話しているが、
圭にはあまりよく聞こえない。

悟は、あくまで公平に話をしているが
狩りに行けない圭に
皆、何か思う事があるのはそうだろう。

自分に向けられる言葉なら慣れている。

でも、

それが今は杏子にも向けられる。
黒髪の真都葉もきっと。

広司が圭に言っていた言葉を思い出す。


子どもには同じ事を繰り返すな。


「圭、大丈夫か?」

悟の言葉に顔を上げる。
青年達はもう居ない。
圭は、頷きながら、肉を拾い上げる。

「大丈夫
 何かあったら、声をかけるよ」

むしろ今は、
頼れる物には頼るしかない。
狩りの事だって、
圭は真都葉には何一つ教えてやれない。

背負った物の重みを感じる。

「ああ、そうだ、圭」

去り際に悟が尋ねる。

「東一族って、動物と話せるのか?」
「動物と?」

確かにそういう話は聞く。
けれども、杏子がどうかは確かめたことが無い。

「どうだろうか?」

いや、と悟が言う。

「そうならば、確かに狩りで肉を食べる
 俺達とは分かり合えないだろうな」
「……そうかもしれないな」

だろう、と、悟が言う。

「産まれた子供は
 どうだろうな?」



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「水辺ノ夢」166

2016年12月09日 | 物語「水辺ノ夢」

圭が仕事へと出かけていく。
それを見送り、杏子は家のことを片付ける。

洗濯を干そうと、外に出る。

天気はいい。



誰かが通りがかる。

杏子は慌てて、隠れる。
東一族の杏子は、本来、外へ出ることは許されていない。

誰か、数人は何かを話している。

杏子には気付かない。

・・・黒髪の子どもが生まれたらしいよ。
 まあ。気持ち悪い。
 このまま、生き続けるのだろうか?

杏子は、隠れたまま、目を瞑る。
西一族が行ってしまうのを待つ。

濡れたままの洗濯物をそのままにして、家の中に戻る。

家の中では
圭の作ったベッドで真都葉が眠っている。

「真都葉・・・」

杏子は、先ほどの言葉を思い出す。

黒髪の真都葉のこれからは、おそらく困難ばかり。
不安しか、ない。

杏子は首を振る。

弱気になってはいけない。
真都葉を守ってやれるのは自分たちだけなのだ。

そう、自身に云い聞かせる。

自分の腕を見る。
ブレスレッドが、ある。

「よし」

杏子は再度、外へ出る。
先ほどの洗濯物を、干しはじめる。

・・・・・・。

「え?」

杏子は顔を上げる。
空を見る。

「今、誰か・・・」

誰かの声。

・・・大丈夫。

そう、聞こえた。

けれども、誰もいない。

杏子は木を見る。
ただ、鳥がさえずっている。

「さて、」

西一族の男が、物陰から動く。
東一族の、その様子を確認していたかのように。

「圭は、作業場だったかな」



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「水辺ノ夢」165

2016年12月06日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、真都葉、来て」

圭が2人を呼ぶ。
杏子は真都葉を抱え、
外に出る。

そこには、今、完成したばかりの
ベッドが置かれている。

「時間がかかってしまったけど」

圭が材料を持ち寄って数日。
毎日少しずつ作り上げていた物。

「ありがとう。
 真都葉、ゆっくり眠れるわね」

ほら、と
真都葉にベッドを覗かせる。

「飾り付けが上手く出来たら良かったのだけど」

ふぅ、と一息ついて
圭は杏子と真都葉の反応を伺っている。

木で出来たベッドはシンプルな物だが
引っかけてケガをしないように
丁寧にやすりで磨いてある。

「1人で作るのは大変だったでしょう」
「いや」

圭は言う。

「1人で完成させたかったんだ」

少しずつかもしれないが
圭は父親としての顔を見せるようになった。
真都葉を抱くのも上手くなったし、
泣き出しても最初の頃のように
慌てることも無くなってきた。

「疲れたでしょう。
 お茶を入れるわね」

杏子が圭に真都葉を預ける。

家に入ろうとする杏子を
圭が引き留める。

「……圭?」

「あの、杏子」

圭は真都葉を抱えたまま
ポケットから何かを取り出す。

「言い出すタイミングを
 逃してしまっていたけど」

圭から手渡されたのは
小さなブレスレット。

「また、受け取ってくれるかな」

もう、戻ってくるとは思っていなかった品に
杏子は驚きの表情を見せる。

「それだけ、
 引き留めてごめん」

圭は気恥ずかしいのか
真都葉を連れて
辺りを歩き始める。

「ありがとう、圭」

杏子の言葉に
圭は背を向けたまま頷く。

「すぐに戻るわ」

家へと向かおうとした杏子の視界を
影が横切る。

あら、と顔を上げると
1羽の鳥が近くの木に留まる所。

「また来たのね」

先日見かけた鳥。
人に慣れているのだろうか
鳥は杏子の様子をじっと伺っている。

ブレスレットを握りしめて
杏子は鳥に微笑む。


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「水辺ノ夢」164

2016年12月02日 | 物語「水辺ノ夢」

「それ・・・」

杏子は、圭が持ち帰ってきたものを見て驚く。

「いったいどうしたの?」

そこに、たくさんの角材。

「いや、あのさ」

圭は、その角材を家の前に並べながら答える。

「真都葉のベッドを作ろうかと思って」
「真都葉の?」

杏子は、圭を見る。

「そう」

微笑む。

「楽しみだわ」

杏子は真都葉に語りかける。

「よかったわね、真都葉」

杏子はマツバを抱いたまま、家の外へ歩きだす。

もともと
圭の家近くは、ほとんど人は通らない。
家の周辺なら、散歩が出来る。

「大丈夫、杏子?」

圭は一応、声をかける。

「ええ」
杏子が云う。
「圭がいるから」

圭は空を見上げる。

晴れ。
手元が見やすい。

圭は作業をはじめる。

杏子は歩く。

外の風に触れ、真都葉は気持ちよさそうに目を閉じる。
杏子と、真都葉の黒髪が揺れる。

杏子は家の周りに咲く花を見る。
日差しは強い。
けれども、またすぐに、季節は変わるのだろう。

杏子は腕に抱く真都葉を見る。

沢子に、西での産着の作り方を習った。
東一族とは違う、産着。
それを、黒髪のマツバがまとっている。

杏子は歩く。

戻ろう。

と、

杏子は鳥の鳴き声に、空を見上げる。

木の枝に、鳥が止まっている。
辺りには誰もいない。
鳥は、杏子を見つめている。

なぜだろう。
なつかしい想いのする、鳥。

久しぶりに、この鳥を見たような気がする。

「早く山へ帰った方がいいわ」

杏子が云う。

「捕まってしまう」

東一族は、動物を友とする。

杏子は、動物と話せるわけではない。

ただ、話しかけるだけ。

やがて

その鳥は、飛び立つ。

水辺の方へと向かって。


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