TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」165

2016年12月06日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、真都葉、来て」

圭が2人を呼ぶ。
杏子は真都葉を抱え、
外に出る。

そこには、今、完成したばかりの
ベッドが置かれている。

「時間がかかってしまったけど」

圭が材料を持ち寄って数日。
毎日少しずつ作り上げていた物。

「ありがとう。
 真都葉、ゆっくり眠れるわね」

ほら、と
真都葉にベッドを覗かせる。

「飾り付けが上手く出来たら良かったのだけど」

ふぅ、と一息ついて
圭は杏子と真都葉の反応を伺っている。

木で出来たベッドはシンプルな物だが
引っかけてケガをしないように
丁寧にやすりで磨いてある。

「1人で作るのは大変だったでしょう」
「いや」

圭は言う。

「1人で完成させたかったんだ」

少しずつかもしれないが
圭は父親としての顔を見せるようになった。
真都葉を抱くのも上手くなったし、
泣き出しても最初の頃のように
慌てることも無くなってきた。

「疲れたでしょう。
 お茶を入れるわね」

杏子が圭に真都葉を預ける。

家に入ろうとする杏子を
圭が引き留める。

「……圭?」

「あの、杏子」

圭は真都葉を抱えたまま
ポケットから何かを取り出す。

「言い出すタイミングを
 逃してしまっていたけど」

圭から手渡されたのは
小さなブレスレット。

「また、受け取ってくれるかな」

もう、戻ってくるとは思っていなかった品に
杏子は驚きの表情を見せる。

「それだけ、
 引き留めてごめん」

圭は気恥ずかしいのか
真都葉を連れて
辺りを歩き始める。

「ありがとう、圭」

杏子の言葉に
圭は背を向けたまま頷く。

「すぐに戻るわ」

家へと向かおうとした杏子の視界を
影が横切る。

あら、と顔を上げると
1羽の鳥が近くの木に留まる所。

「また来たのね」

先日見かけた鳥。
人に慣れているのだろうか
鳥は杏子の様子をじっと伺っている。

ブレスレットを握りしめて
杏子は鳥に微笑む。


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