TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」164

2016年12月02日 | 物語「水辺ノ夢」

「それ・・・」

杏子は、圭が持ち帰ってきたものを見て驚く。

「いったいどうしたの?」

そこに、たくさんの角材。

「いや、あのさ」

圭は、その角材を家の前に並べながら答える。

「真都葉のベッドを作ろうかと思って」
「真都葉の?」

杏子は、圭を見る。

「そう」

微笑む。

「楽しみだわ」

杏子は真都葉に語りかける。

「よかったわね、真都葉」

杏子はマツバを抱いたまま、家の外へ歩きだす。

もともと
圭の家近くは、ほとんど人は通らない。
家の周辺なら、散歩が出来る。

「大丈夫、杏子?」

圭は一応、声をかける。

「ええ」
杏子が云う。
「圭がいるから」

圭は空を見上げる。

晴れ。
手元が見やすい。

圭は作業をはじめる。

杏子は歩く。

外の風に触れ、真都葉は気持ちよさそうに目を閉じる。
杏子と、真都葉の黒髪が揺れる。

杏子は家の周りに咲く花を見る。
日差しは強い。
けれども、またすぐに、季節は変わるのだろう。

杏子は腕に抱く真都葉を見る。

沢子に、西での産着の作り方を習った。
東一族とは違う、産着。
それを、黒髪のマツバがまとっている。

杏子は歩く。

戻ろう。

と、

杏子は鳥の鳴き声に、空を見上げる。

木の枝に、鳥が止まっている。
辺りには誰もいない。
鳥は、杏子を見つめている。

なぜだろう。
なつかしい想いのする、鳥。

久しぶりに、この鳥を見たような気がする。

「早く山へ帰った方がいいわ」

杏子が云う。

「捕まってしまう」

東一族は、動物を友とする。

杏子は、動物と話せるわけではない。

ただ、話しかけるだけ。

やがて

その鳥は、飛び立つ。

水辺の方へと向かって。


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