雨が、降り続いている。
透に支えられて、圭は西一族の村に戻る。
その様子に、先に狩りから引き揚げていた若者たちが、何事かとざわつく。
「広司!」
そのひとりが、にやにやしながら、広司に声をかける。
「大変だったな」
広司は何も云わず、抱えてきた獲物の肉を下ろす。
沢子が云う。
「私と広司で肉は運ぶから、そのまま病院へ向かいなさいな」
透は頷き、云う。
「圭、大丈夫か? 行くぞ」
圭と透は、ざわつく広場を後にし、病院へとたどり着く。
「まあまあ!」
慌ててきた高子が、声を上げる。
「圭も狩りに行ったの?」
「そう」
圭の代わりに、透が答える。
「圭を、頼んでもいい? 俺、広場に戻るから」
「いいわよ」
高子は、圭の腕をとる。
中へと、連れ立って歩く。
「無茶したのね」
高子が云う。
「ケガしたのは、右腕だけ?」
圭が頷く。
「仕方なかったんだ・・・」
「そう」
診察室のベッドに、圭を案内すると、高子は道具を準備する。
「傷は浅いけれど、今日はここで、休んでいって」
「え?」
軽く手当をして、帰れると思っていた圭は、上半身を起こす。
「でも、俺、帰らなくちゃ」
「様子見よ」
高子が云う。
「だって、獣にやられたんでしょう? 浅い傷口からでも、怖い病原菌は入るのよ」
「病原菌・・・」
「クロストリジウム、とかさ」
「くろすと・・・」
聞きなれない単語に、圭はうなだれる。
「なんとか、帰れないかな?」
「意識がはっきりしたまま、神経毒に苦しめられるわよ」
云いながら、高子は、圭の腕の手当てをする。
「たった1日じゃない」
「でも・・・」
「何かあったら、元も子もないわ」
高子が云う。
「あなたは、あなたの事情で、狩りに出たんでしょう?」
圭は頷く。
「じゃあ、安静に!」
最後に、注射をすると、高子は、圭の肩をたたく。
云う。
「あの子には、伝えておくわ」
圭は、目をつむる。
もう片方の手に持つ水晶を、握りしめる。
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