雨が当たる感覚で圭は目を開ける。
「お、目を覚ましたみたいだな?」
透が圭を覗き込んでいる。
「広司!!圭が起きたよ!!」
沢子の声も聞こえる。
気を失っていたのだと分かり圭は飛び起きる。
「……俺?どれくらい?」
見回すと場所は変わっていないようだ。
「そんなに時間は経っていないぞ。
でも雨が降り始めたらから急いで帰ろう。立てるか?」
透が差し出した手を取ろうと右腕を上げかけて
痛みに思わず顔をしかめる。
「傷も少し深いみたいだ。
帰ったら高子医師(せんせい)に診てもらえ」
雨に濡れながら、広司は3人のそばで荷物をまとめ始める。
その様子を見ながら圭は透に尋ねる。
「獲物は?」
「あの大きさだとちょっと運べないからな。
天気が良ければ後から人数を集めて取りに来るんだが」
「今日は捌いたものを。運べる分だけ持ち帰るのよ」
立ち上がった圭に広司が近寄る。
「持て、お前も分担だ」
手渡された物を何とか左手で支えながら、圭は言う。
「みんな。……俺、迷惑をかけてしまって」
「狩りでの失敗は誰でもある」
圭を見据えて、広司が言う。
「……広司」
「だが、狩りのたび倒れられては、そうだな、迷惑だ!!」
「おい、広司!!」
透が止めるが広司はそのまま続ける。
「本当の事だ。
獲物が倒れたくらいで気を抜きやがって。
本当に危なかったのは透や沢子だ。分かっているのか」
広司の言葉は圭に刺さる。
「……分かっている」
「なら、もう狩りに参加するなんて言い出さないことだな」
そのまま、広司は歩き出す。
透と沢子は困ったように顔を見合わせていたが
肩を叩き、圭を促す。
「俺たちは大丈夫だから。広司に続こう。雨が強くなる」
「それにしても大きかったな」
「他の奴らの狩りで、上から追われて来たのかもしれないな」
広司と透の会話を聞きながら山を下る。
きっと今もペースを合わせてくれているのだろう。
圭は髪を伝って落ちる雫を見ながら思う。
迷惑はかけたくなかったのに。
そんなつもりは無くても、結果的には足を引っ張ってしまった。
行きと同じように圭の後ろを歩いていた沢子が声をかける。
「ねぇ、圭。これあげる」
沢子が差し出したものを受け取る。
「獲物のお腹から出てきたの。
たまに、こういうのを飲み込んでいたりするの。
狩りの記念に、お守りにするんだよ」
手のひらの物を圭は見つめる。
「……これ、水晶か」
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