TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」11

2013年09月10日 | 物語「水辺ノ夢」
水辺はもうすっかり暗くなる。

「……杏子」

圭が声をかける。

「君は、光の後を追いたいの?」
「……分からない……」

呟くように杏子が言う。

「信じられない、の、光がもういない、なんて」
「……」
「何をしたらいいのか、どうしたらいいのか、が分からないの」

もう何年も、同じ病を抱えているから
本人である圭が一番分かっている。

自分の病は死に至るものではない。

光というその人と自分を重ねている杏子を
出来る事ならば、助けてやりたい。

でも

「俺に出来ることは、これだけ」

圭が杏子の手を引く。
夜明けには、まだほど遠い。

「村に帰るんだ、杏子」

そこで、杏子は、また死を選ぶのかもしれない。

ここが、西一族の村でなければ、
自分がこれほど非力でなければ、

まだ、違う事をしてあげられたかもしれないのに。

舟がゆっくりと動き出す。
夜の湖には、舟をこぐ音だけがゆっくりと響く。

「杏子の家族が心配している」

舟は東一族の村へと向かう。



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