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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」237

2020年09月15日 | 物語「約束の夜」
ふう、と
センは深いため息を付く。

傷口から流れる血。

それは致命傷ではない。

だが、

「もう、いいか」

そう呟くとともに踏み込み、
距離を取っていた満樹に迫る。

「!!」

満樹はとっさに、持っていた剣で受ける。
躱すというよりは
なんとか剣先を逸らしながら
受け身をとりつつ距離を取る。

「満樹!!」

その隙にマサシがセンの背後に回る。

が、

「ダメだ、マサシ!!」

「!?」

センの短剣がマサシを捉える。

「うあ、」
「マサシ!!」

京子の悲鳴に近い声が上がる。

「だいじょ、ぐっ!!?」

倒れ込むマサシを
センが踏みつける。

「………マサっ」
「待て、京子、」

駆け寄ろうとする京子を
満樹が引き留める。
先ほどとは格段に違う動き。

迂闊に近寄ってはいけない。

センは顔を上げる。

「貴重な生け贄だ、と、手加減してやるとこれだ」

自身の血を見ながら
センは言う。

「もういい。
 不要なものは捨てる。
 残ったものだけ使う。
 足りなければ、数を揃えれば良いだけだ」

マサシの傷口から血が流れていく。
どうにかセンから引き離さなければ、と
満樹は剣を構える。

その横で京子は祈るように呟く。

「お願い………早く、早く!!」

その様子を見てたチドリは
耀に声を掛ける。

「諦めた方がいい」
「うん?」
「センが本気を出す前に
 止められなかったお前達の負けだ」

「…………そうだな」

耀は、構えていた剣を下げる。

「確かに、もう、遅い」

そう言う様の口元が上がる。

「もっと早く、
 治癒の術をかけてやるべきだったな」

「なにを?」

チドリは耀の後ろに目を凝らす。

ヨシノ、
そして、気を失ったはずの
オトミとノギが目を覚ましている。

「………」

ヨシノとノギ。

そして、京子は“早く”と言った。

マサシを助けて、
そういう意味ではないとしたら。

「!!」

チドリは目を見開く。

「セン!!!」

カラン、と音を立てて
短刀が床を転がる。

それは
マサシに振り下ろされようとしていたもの。

不思議そうにセンは
自身の掌を見つめる。

僅かに震える指先。
痺れるような感覚。

「これ、は」

「は」

翼が笑う。

「やっと効いてきたか」

「まさか!!」

京子が投げた短剣。
そして、翼はこう言っていた。

剣先に気をつけろ、と。

「毒、か!!!」

今しか無い、と
満樹が動く。
翼もそこで初めて剣を抜く。


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「約束の夜」236

2020年08月07日 | 物語「約束の夜」
「くっ・・・」

京子の短刀。

その痛みに、センはその場所を押さえる。

不覚だったのか。
思いのほか、血が流れる。

「礼儀を知らない、孫たちだ」

「ほら、俺の子たちは見込みがあるだろう」

満樹とマサシ、京子。
今はその3人で、センの相手をしている。

けれども、それで互角、なのか。

「まだまだよ!」

マサシの声。
満樹も、センの懐を狙う。

「血のつながりか」

センが云う。

「さすが、息が合っている、と云うか」

とどめをさせなくてもよい。
いや、
とどめをさすのは無理だ。

せめて、ここから逃げ出したい。

京子も短刀を持ち直す。

センにケガを負わせたこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「ふぅん」

センは手に短刀を握っている。
京子の投てき用とは違う。
小回りのきく、短刀。

片方のその手で満樹の剣を塞ぎ、
片方の素手で、マサシを捉える。

「2対1でも、この力!?」
「年寄りにしては、ずいぶんと力があるのね!」

3人の力が拮抗する。

「簡単にいったらおもしろくないだろう」

センが云う。

「仮にも裏一族をここまでにしたんだからな」

「くっ・・・!!」

満樹とマサシは弾き飛ばされる。

が、

すぐさま、立ち上がる。

満樹は再度、センを狙う。

「・・・・・・!!」

満樹の剣の前に、センの小刀。
剣を止められ、

る、前に

満樹は踏み込む。

剣を違う方向へ。

「何!!?」

「やった!?」

マサシは声を出す。

「まだだ!!」

もう一度。

満樹の手が、センの小刀を持つ手を捉える。

「やるな!」

満樹の剣が、センを貫く。

「・・・・・・!!」

満樹は身体を翻す。

「あーあ」

センは息を切らしながら、自身の身体を見る。
血が流れている。

「これで、2回やられた」




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「約束の夜」235

2020年08月04日 | 物語「約束の夜」

「簡単に言ってくれるなよ」

そう呟きながらも
満樹はセンを追う。

翼のように
術で押さえつけるような強制力はない。

それでも

なぜ、センが
規格外の力を使う裏一族達をまとめ上げているのか
彼らが従順に付き従っているのか
その意味が分かる。

魔法を無効化するという力を抜きにしても
一つ次元が違う。

「うんうん、いい動きだ」

どこか余裕のある口ぶりで
センは言う。

「それぐらい無くては困る」

「ほら」

背後から声が降ってくる。

「!!」
「京子!!」
「京子ちゃん!!」

センが、京子の後ろに回り込んでいる。

「よそ見していたら、
 こうなるぞ」

首筋を掴まれる。

と、それをすんで、で屈み込むように避けて
なんとか距離をとる。

「おお、上手上手」

「京子!!」
「だい、丈夫」

満樹が駆け寄る。

「俺より前に出るな」
「ごめん」

「はあ!!!!」

マサシが拳をふるう。
谷一族に伝わるという、
脚術と拳術。

「いい筋だな。
 身長もあるから尚のこと」
「簡単に受け止めて
 言ってくれるわね」

「マサシ、2人がかりで」

満樹も加勢に加わる。

それを京子は少し離れた所で
見守る。

は、は、と短い息が漏れる。

センの攻撃を避けた時の感覚。

なにか掴めそうで掴めなくて
京子はもやもやと何かを感じる。

「…………」

すう、と息を吐く。

張り詰めた空気。
一瞬の隙も見せられない。
始まってしまえば
息をつく暇もなく、命の奪い合いが始まる。

「あ」

気がつく。

それは、西一族の狩りの感覚。

満樹であれば砂一族との戦い、
マサシならば、
僅かな音も聞き逃さずに
坑道を深く潜る時の様に。

これは狩りではない。
でも、
自分が一番良く動けるのは
それを思い浮かべたとき。

ある程度の事を決めていても
狩りが始まれば
それが通用しなくなる時もある。

班で行う狩りは尚のこと。
お互い、なにをどう動くかは
その場のそれぞれの判断に任せられる。

今と同じ。

尚も攻撃を続ける満樹とマサシ。

センは2人に集中している。

「ほら」

翼が京子の横を通り過ぎる。

渡して行ったのは
先程京子が投げた短剣。

そう。

以前から、
得意なのはこういう武器。

獲物を仕留める事は出来ないけれど
初手として、その動きを止める事に
狩りの班では貢献してきた。

「剣先には気を付けろ」

翼の言葉に京子は頷く。

すう、と深く息を吸う。

動きを読んで、
獲物を仕留める時の様に
今では無く、数秒先。

そこに居るだろうという場所に。

「………」

京子は短刀を投げる。

「くっ」

それが、僅かにセンに当たる。
肌をかすめる程度のもの。だが。

「あたっ……た」

「その調子よ、京子ちゃん」

マサシと耀がそれに続く。

「二人とも、お願い!!!」




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「約束の夜」234

2020年07月31日 | 物語「約束の夜」
「同じ力?」

満樹は、ふたりのやりとりを見る。

「魔法を無力化すると云う?」

マサシもその様子を見る。

この世界は、魔法を使える者とそうでない者がいる。
強い力を持てば、簡単に相手を服従させることが出来る。

けれども

そう、簡単にはいかなかった。

魔法が使えない者も
使えない、と思われていただけ。

一部の者は
魔法を無力化する魔法を身につけている、と云う。

それにより、とれている世界の均衡。

確かにその力なら、チドリに対抗出来る。

「魔法を使う者と同じだ」

チドリが云う。

「その力にも、強いか弱いかがある」

つまり

チドリの力が上か。
耀の力が上か。

それでも

「やってみないとわからないな」

そう、耀が云っている。

「本当なら、こちらにもチャンスがあると云うことね」
「耀、頼む」

「さぁて」

センの声。

「どうする? こちらは余興が終わってからにするのか?」

満樹とマサシ、翼はセンに向く。
京子も隣にいる。

「京子」

満樹が云う。

「下がっていろ」
「いやよ」
「京子ちゃん」
「私だって、戦える」

せめて、ツイナが動けるようになるまでは。

「ふふ、」

センが云う。

「1対4じゃないか」

「・・・・・・」

「ずるくないか?」

「今は多少ずるくても、お前を倒す」

京子は自身の武器に触れる。
狩りの道具。
それでも、もしものときにと、身に付けておいたものだ。

武器はいつもの場所にある。

動かせる。

「作戦、立てられなかったからねぇ」

マサシは汗をかく。

緊張。

「お前たちはそれぞれの一族で学んできたんだろう」
翼は云う。
「それぞれの力と、あとは血のつながりだ」

「血のつながり?」
「それで、チームワークはいけると?」

マサシは苦笑い。

「それ、あなたが云う?」

それでも
この圧倒的な力の前に、少し肩の力が抜ける。

動く。

センが坐っている場所へ。

満樹は剣を抜く。
そのまま、センの身体を

いや

センが坐っていた椅子。

それに

刀が刺さる。

「おい!!」

マサシは別の方向へ。
センはすでに移動している。

京子は短刀を投げる。

「すばしっこいのね!!」

センはいない。

「お前らよく見ろ」

翼の声。

「魔法じゃない。動きは読める!」




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「約束の夜」233

2020年07月28日 | 物語「約束の夜」

「移転魔術?」

まさか、とセンは眉をひそめる。

「東一族でもほんの僅かしか使えない術だぞ」

それが、海一族の
しかも西一族の血を引くツイナに?

「まあ、俺じゃないんだけど、ね」

に、とツイナは笑う。

「ちょっとは動揺したかな。
 足止めになったなら」

よかった、と
ツイナはその場に座り込む。

「ツイナ!?」

大丈夫か、と満樹が声を掛ける。
元々力を吸われていた所に
使い慣れない術を立て続けに使っている。
体力はほとんど残って居ないはず。

「俺はいいから」

ツイナは膝を立てながら唸る。

「後は、頼んだ」

満樹とそして、マサシは頷く。

「あれ、の厄介な所は
 魔術を無効化する力だ」

だが、と翼は言う。

「術師にとっては厄介だが
 なに、元より俺達は魔法を主力にはしていない」

「数で攻めていくしかないな」

「でも、それを補うように
 チドリが厄介な所ね」

高度な術使いが多い北一族の中でも
飛び抜けた力を持つ、チドリ。

「かといって、
 今を逃すと後がない」

なにより、ここは裏一族のアジト。
他の者達が駆けつければ
もう逆転の手立てが無い。

「俺達は、センに集中しよう」

満樹はちらり、と視線を送る。

「チドリの相手は
 あちらに頼むしかないな」

「………」

京子は言葉を飲み込む。
気がつけば魔方陣の外に移動している。
ヨシノやノギ、オトミも同じ。

ツイナが光の魔法を使ったときに
京子達を引き上げてくれた。

「………っ」

ふう、とため息が聞こえる。

「もう少し粘りたかったんだが、
 このあたりが潮時か」

耀がチドリの対面に立つ。

「お兄ちゃん」

チドリは残念そうに笑う。

「そんな気はしていたんだが、
 いつからだ?」
「いつから?」
「ああ、いつから翼と手を組んでいた?」

「お前の過去を見せる術。
 使い手のお前は他人の過去も見えていただろう?」

「なんの話を?」

答えながらもチドリは記憶を振り返る。

「その記憶の中で、
 あいつが直接迎えに来たのは誰だ?」

アザを持つ子供達の中で
唯一、
翼が声を掛けに来たのは、

『お前を迎えに来た』
『俺と共に
 来るつもりは無いか?』

「耀、お前!?」

そうだ、と耀は答える。

「いつからだって?
 最初からだよ」

自ら失踪したのも。
京子を疎い、裏一族側に着いていたのも。

「この時のためだ」

耀は振り返らず告げる。

「京子」
「お、にいちゃ」
「ここは俺だけでいい。
 お前は戦力になる、あちらにいけ」
「でも」
「俺の妹だろ。
 こんな所で膝をつくな」
「!!」

こくり、と京子は頷き立ち上がる。

「わかった、すぐに片付けて戻ってくる」

「さすが京子だ。
 ヨシノ、お前はノギとオトミを」

その言葉にヨシノは頷く。

チドリは杖を握り直す。

「耀、お前の戦いの腕は知っている。
 けれど、俺の術に一人でどうするつもりだ」

チドリの忠告を
耀はさらり、と流す。

「お前はセンには敵わない。
 恩義の服従もあるが、
 センの力とは相性が悪いからだ」

術を無効化する力。

魔法を消すことが出来る
魔法のような力。

「………まさか」

なぜ翼はこの時の切り札として
耀を選んだのか。

それは。

「センは本来西一族だ。
 この力は西一族に出やすいのかも知れないな」

そう。

「俺も同じ力があるとしたら、
 ―――どうする?」





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