浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ブルックナー 破棄を免れた交響曲第0番

2010年09月22日 | 忘れられた作品作曲家
別に珍しい曲でもないが、僕にとってこの1年間の中で最も心に残る新しい出会いと云へば真っ先に此の交響曲が浮かぶ。其れほど繰り返し愛聴してゐる作品なのである。

ブルックナーの若かりし日の交響曲の一つであるが、ブルックナーは整数の数え方を教わってゐなかったと見え、1番の次が0番、1番の前は00番だと思ってゐたやうだ。2番から9番まではきちんと数えられたのだから少し残念に思ふ。しかし、9番の次が何番だか分からず、其のことで悩み体調を崩して亡くなってしまった。

第1楽章はオクターブと5度の単純な動機が聴こえてきて嬉しくなる。深みを感じさせるブルックナー独特の世界が既に備わってゐる。冒頭の絃樂の動機に金管の重厚な響きがかぶさる。独特のユニゾンとブルックナー休止、壮麗な響き、そして第7番を思はせる絃樂合奏とコラール風の金管から全奏になだれ込む感動的なエンディング!正にブルックナーの真面目だ。第2楽章にはミサ曲やその後の交響曲にも類似した主題が使われてゐて、ブルックナーらしさを随所で感じさせられる。第3楽章のスケルッツォだけはSP時代に既に録音が残されてゐて、親しみ易い名作として多くの人々に愛されて来た歴史がある。終楽章は絃樂による序奏部に続いて対位法によるフーガ風のストレッタなど高揚感のある素晴らしい出来栄えである。

ブルックナーが周囲に居たお偉い人たちの詰らぬ意見(第一主題は何処だ?)に無頓着であったり、或いはエリック・サティほどの反骨精神が少しでも有れば、交響曲二短調「第一主題は何処だ」といふ副題付きで発表されてゐたことだらう。本邦初演は朝比奈のおっちゃんによって、作曲されてから100年以上経った1978年に行われた。此のときのチラシなどは大切に保管してゐる。

僕が愛聴してゐるのは、フランクフルト放送交響樂團による演奏で、指揮は新進気鋭のエリアフ・インバルとかいふ人である。インバルの力む声も聞き取れる名演だ。それにしても独逸の放送局付き管絃團は実力と雰囲気の両方を持ってゐて、さすが独逸國!と思はずに居られない。

盤は、Teldecによるデジタル録音CD 0630-14194-2。


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