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アサド大統領の演説に落胆する市民 2011年3月30日

2016-11-22 14:41:49 | シリア内戦

3月29日、ナジ・オタリ内閣が辞職し、新内閣が数日後成立することになった。ナジ・オタリは3003年から首相の地位にあった。シリアでは、首相の権限は限られている。アサド大統領に権限が集中し、結局は彼の家族、軍および情報機関が実権を握っている。

3月30日アサド大統領が国会で演説した。ダラアをはじめとする最近の反乱について、大統領が初めて口を開いた。シリア在住のジャーナリストがこの演説内容を紹介し、ダマスカス市民がどう受け止めたか書いている。この記事はガーディアンに掲載された。

====《Assad blames conspirators for Syrian protests 》=====

アサド大統領が議会で演説した。200年の就任以来 彼は最大の危機に直面しているが、市民の要求に対する大統領の考えは、これまで彼の報道官が発表してきた。大統領が直接話すのは今回が初めてであり、国民の関心が高かった。しかし演説内容は期待を裏切るものであり、市民の抗議に応えるものは何もなかった。シャーバン報道官が約束した改革について、一言も語られなかった。最近2週間の抗議運動は外国の陰謀と衛星放送が原因であるとし、国民の不満を受け止めようとはしなかった。

政権内には国民に心を開き、彼らと対話すべきだという意見もあったようだが、結局大統領は「反乱は断固鎮圧すべし」という意見を採用した。政権の中核部分がそう考えていたのだろう。

アサド大統領は議会で次のように述べた。

「イスラエルのために働いている連中が騒乱を起こしている。改革というスローガンのもとに、社会を混乱に陥れている。

こうした外国の陰謀を前にして、国民の団結心が試されている。

もちろんデモをする人が全員外国のスパイではない。純粋に改革を求めている人もいる。ダラアでのデモで、行き過ぎた取り締まりにより死者が出たことは、悲しむべきことだ。

改革は必要だが、それを実行するのは、現在の混乱が収束し、経済が改善した後だ。改革が遅れたことことは申し訳ない。改革の意志は変わっていない。しかし今はその時ではない。最優先すべきは、社会の安定と経済の向上だ。」

演説は聴衆である国会議員の熱烈な賛同の拍手で、しばしば中断した。テレビ中継され、国民もこの演説を聞いたが、ダマスカス周辺のカフェや家庭での評判は最悪だった。

「これでシリアは終わりだ」と若い技術者が言った。「改革の約束はなく、謝罪もなかった。演説を聞いてますます腹が立った。少なくとも、市民が殺されたことについて謝ってほしかった。

ダマスカス市内に住む別の男性が電話で話した。「彼の話はナンセンスだ。今まで通り市民を弾圧しろ、と治安部隊に許可を出したようなものだ。アサドは宗派対立をあおり、その恐怖で国民を脅している」。

改革について具体的な話は一切なく、すべて後回しにされた。

民主化を期待していた人々は、大統領の演説があまりに期待外れなので、ぼう然とした。「俺たちの中にイスラエルのスパイがいる、だって?」

アサド支持者は異なった受け止め方をした。キリスト教徒のビジネスマンは、戒厳令が廃止されることに不安を覚えた。彼らは少数派であり、多数派の暴動が野放しになることを恐れた。

ある評論家によれば、最近複数の外国政府がアサド大統領を支持するメッセージを寄こしたので、アサドは強気になっている。そのため彼はほとんど譲歩しなかった。改革は従来から進められていることの線上で語られた。最近爆発した国民の強い不満を過少評価し、あたかも不満が存在しないかのように語った。

============(ガーディアン終了)

シリアでは多くの人が戒厳令の廃止を求めている。ダラアの反乱も、反体制的な落書きをした子供の逮捕・拷問に端を発している。戒厳令は、このような無差別逮捕と拷問を可能にしている。ダラアの反対派は戒厳令の即刻廃止を要求している。しかし戒厳令の継続を願っている一般市民(キリスト教徒など)もいるようで、改めてシリアの宗派問題の複雑さを感じさせる。

30日の大統領の演説について、上記のダマスカス在住の覆面記者の評価を読むと、演説内容全体を知りたくなった。

現在2016年11月、政府軍はロシアとイランに助けられて、巻き返しに成功している。特に反政府軍最大の拠点、東アレッポの奪回に成功しつつある。しかしこれは外国勢の勝利であり、アサド軍自体は兵数が減少しており、勝利を維持するのも外国頼みである。一方で、域内諸国と米国が反政府軍を懸命に支えている。武器援助だけでなく、サウジ、バハレーン、首長国が派兵している。先のことはわからない。

反政府軍が勝利すればバシャール・アサドは死ぬ運命にある。リビアのカダフィのようにである。ただし、米国が干渉に本腰を入れない姿勢を続ければ、勝利の可能性もある。最悪でも、カンボジアのポル・ポトのように、国内のアラウィ派地帯で生き延びるかもかもしれない。いずれにしても極めて追いつめられた状況におり、生死の瀬戸際で生きている。

勝利しても、残酷な独裁者というイメージは免れない。

シリア内戦を理解する上で、大統領個人の資質と彼の頭の中身を知ることは不可欠である。

ネットを検索してみたら、演説内容全部の英訳と国会演説の中継録画が見つかった。

演説の録画はなぜか、米国の国会中継専門のサイト(C-span)にあった。

(テキスト) Speech to the Syrian Parliament by President Bashar Al-Assad, 30 .

(録画)Syria President Bashar al-Assad Speech to Parliament

録画の冒頭では、国会の前に大勢の支持者が集まって歓呼している。議場に向かう大統領は長身で見栄えが良い。議会は全体主義体制らしく、拍手の音頭をとる者がいて、議場に反対政党はいない。全員が与党である。他の全体主義国家と同じであるが、少し違うのは、音頭をとる者が何人もいて、陽気な点である。ソ連などの場合、誰が音頭を取っているかわからず、一斉の拍手となる。シリアの場合、議員の中に浮かれた連中がいるという感じである。

演説全文を読んでいろいろ知ることができた。アサド大統領はダラアの問題を詳しく知らないようである。情報部の長官やエリート師団を率いる大統領の弟マヘルは一部を隠して報告しているようだ。その結果、ダラアの問題は解決した、とアサド大統領は楽観している。ダラアの問題は4月になってさらに深刻になるが、完全に見誤っている。

ただし、演説全体は興味深く、父親に似て慎重な性格が表れている。改革が遅れた原因について語り、2000年代のシリアがが置かれた国際環境が緊迫しており、そちらにエネルギーを集中せざるを得なかった、としている。2003年米軍のイラク侵攻があり、その後レバノン問題が起きた。これらはシリアにとって国家危機であり、シリアは常に外国からの脅威にさらされている。かといって内政をすべて後回しにしたわけではなく、農業に大打撃を与えた干ばつの対策には真剣に取り組んでいた。結果はともかく、外交問題と同程度に干ばつの被害は彼の頭を悩ませた。

大統領がどれだけ真剣に取り組んでも、官僚を動かしして結果を出さなければ、何もしなかったのと同じである。ピラミッド型の官僚群を動かすのは、どこの国でも難しい。特に中東は難しいようだ。上級官僚だけでなく、中級から最下級の官僚まで、汚職を本業とし、たまに役人としての仕事をしている。

国民の3割が死ぬ革命をやっても、この点は変わらない。かりにシリアで反政府軍が勝利しても、この点は変わらない。アサドの一党は消えるだろうが、望んだような政府は生まれない。


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