梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

下手から見る『勧進帳』

2007年05月18日 | 芝居
今回、初めて『勧進帳』の義経の後見をさせて頂いておりますが、これまで数度勤めさせて頂いた富樫の後見とはかわり、舞台の<下手>から芝居を見守ることになり、とても新鮮な感じがいたしております。
富樫の後見は上手にたった1人ですが、下手には私の他に、弁慶の<シン後見><ツケ後見>のお2人、計3人が待機しております。このことが私にとっては大変心強うございまして、ひとりポツネンと1時間近くを過ごす富樫の後見にくらべまして、じっと控えているのは同じでも、周りに誰かがいるという状況はとても安心できるのです(気を抜いているわけではありませんよ)。
それに、弁慶の後見のお仕事ぶりが間近に拝見できるのも嬉しいところ。小道具の用意の仕方や多々ある用事のこなし方、キッカケや段取りなど、見ているだけでも勉強になります。いつか弁慶の後見も経験してみたいなあ…。

義経が背負っている<笈(おい)>と、手に持つ<金剛杖>は、弁慶の主要な演技に関わるものですので、管轄的には弁慶の持ち道具となります。開演前に、成田屋(團十郎)さんの楽屋からお借りするかたちをとっています。笈は布張りですが、地紋が<牡丹唐草>で、市川家ゆかりの文様になっていることも、今回初めて知りました。金剛杖には、これまで使用されてきた方々の白粉がうっすらとしみ込み、無数の小さな傷やすり減り具合が、長年使い込まれてきたことを偲ばせます。手にしますと、たんに小道具とはいえない、使い手の想いがこめられた歴史の重みをひしと感じます。

富樫の後見の時は、お笛の音がよく聞こえましたが、今回は大皷(おおかわ)の音が体に響きます。お唄の迫力もすごいもので、こんなところにも、居場所が変わったことを実感するときがございます。